劇場公開日 2014年6月27日

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「ミッチミチに詰め込まれた濃密な“何か”をテンポ良くハイスピードで堪能できる作品。」渇き。 Opportunity Costさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0ミッチミチに詰め込まれた濃密な“何か”をテンポ良くハイスピードで堪能できる作品。

2014年7月14日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

笑える

楽しい

幸せ

非常に良かった。

丁寧な構成、濃厚な映像表現。
そして魅力的な登場人物。
序盤から話にグッと惹き込まれ、終始ゲラゲラ笑いっ放しでした。

まず丁寧な構成。
現在と過去の話が同時並行で語られる本作。
共に加奈子を知る過程が描かれていますが。
「現在」は外側から、後から振り返る加奈子。
「過去」は内側から、当時の進行形の加奈子。
二つの時間軸で視点が異なり加奈子がより多面的に描かれています。

同時に「現在」と「過去」が互いを補足し連結する関係に。
序盤の「現在」は登場人物を説明しつつ加奈子への違和感の植え付けて「過去」に繋げます。
そのため白く明るい基調で描かれる「過去」ですが…禍々しさが随所から滲み出る。
その「過去」で語られる描写が「現在」でも別の方法で明らかとなる。
また「現在」で既に知ってしまった事実に向けて「過去」が進んでいく。

比較的緩やかにかつ丁寧に描写される「過去」で溜めた情報や伏線を「現在」で猛烈なスピードで回収/展開するテンポの良さも相まって。
緊張と緩和が繰り返される長いジェットコースターに乗っているような快感がありました。

また映像表現も良かった。
「現在」の80年代風ハードボイルド映像。
「過去」のアニメ映像、スタイリッシュなパーティー映像。
「過去」の方が“今っぽい”チグハグ感、違和感。
と共に底知れぬ不気味さ、空虚さを感じる作りに。

時間経過と共に増える画面上の黒さ、暗さ、冷たさ。
序盤には何処かポップな暴力場面が差し込まれていましたが。
話が展開するにつれて暴力は連鎖し加速し只々ドス黒い凶悪さを曝け出します。
画面の暗さも相まって思わず息が詰まります。
そこからパッと切り替わる、或る明るい画面。
画面は明るく開放感があるにも関わらず描かれるのは壮絶な行為。
暗い画面で溜めて溜めて溜めて…パッと切り替えつつ流れはより加速するという演出にグッときました。

そして魅力的な登場人物。

役所広司 演じる藤島昭和、最高でした。
序盤から汗と脂でギットギトで顔色が悪い顔。
話が進むにつれてドンドンと勲章が増えて濃厚に。
笑った時の声や顔も凄惨で、思わずつられて笑いが零れる程。
役所広司の“顔力”が高く嫌な魅力に溢れていました。
外見のみならず内面も良かった。
抗うつ剤とアルコールを併用する矛盾。
食欲は旺盛だが口にすれば嘔吐する矛盾。
その他数多くの矛盾を抱え除外された不適合者の言動は滑稽であると同時に哀しさもあり。
特に自身と結び付けた加奈子に対する評価は時間経過と共に変化があり興味深かったです。

小松菜奈 演じる加奈子も良かった。
加奈子の底知れぬ人物像、と同時に小松菜奈の新人とは思えない肝の据わり方。
総じて“顔力”が高い面々が強烈な個性を発揮する中で動揺もせずドッシリしている。
その得体の知れなさが違和感、一種の淫靡さ/妖艶さも醸し出しており。
時折見せる変顔、くだけた口調のギャップも良かったです。
当該人物が成立していたからこその本作、といっても過言ではないと思います。

妻夫木聡 演じる浅井もオダギリジョー 演じる愛川も良かった。
浅井は終始ニヤニヤと鬱陶しく時折見せる別の顔にも改めて苛々させられます。
が、溜めに溜めた所での…あの場面!
浅井から漏れる一言も含めて爽快感が半端ない場面でした。
また愛川は魅力がギュッと濃縮。
特に視点が定まらない状態から覚醒する際のオダギリジョーの演技が良かったです。

その他出演陣も総じて良かった。
何より俳優陣が登場人物を十二分に楽しんでいるのが感じられて良かったです。
特に役所広司、妻夫木聡、オダギリジョーは物凄く楽しそうでした。

ミッチミチに詰め込まれた濃密な“何か”をテンポ良くハイスピードで堪能できる本作。
余談ですが後半の暴行場面で比較的長めに撮られる昭和vs黒パンティは思わず笑いました。
賛否分かれていますが、個人的には十二分に堪能した好きな作品でした。

オススメです。

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Opportunity Cost