劇場公開日 2014年6月27日

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渇き。 : インタビュー

2014年6月25日更新
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役所広司&小松菜奈が語り尽くす、中島哲也監督と過ごした濃密な時間

常に“期待を超えるもの”を模索し映画を撮り続けてきた鬼才・中島哲也監督は、4年ぶりに手がけた劇映画「渇き。」で再び観客を驚がくさせる。中島監督と言えば、“名前”だけで観客を呼べる希少な映画監督。映画にエンタテインメント性と作家性を共存させ、さらに毎作ヒットを飛ばしてしまう日本映画界の異端児である。そこにベテランの実力派・役所広司と、本作で女優としての才能を開花させた可憐な新星・小松菜奈が加われば、まさに“鬼に金棒”といったところ。そんな2人が間近で目撃した中島組の秘密を探る。(取材・文/山崎佐保子、撮影/根田拓也)

原作は、中島監督が読んだ直後に映画化を熱望したという作家・深町秋生氏の第3回「このミステリーがすごい!」大賞受賞作「果てしなき渇き」。ロクデナシの元刑事・藤島昭和(役所)が、突然失踪した高校生の娘・加奈子(小松)の消息をつかもうと独自の調査に乗り出すが、優等生だったはずの娘の恐ろしい“素顔”を知るにつれ、愛憎入り交じる狂気に取りつかれていく。

とにもかくにも、「まずは中島監督が撮るということ」から役所の出演は決まった。「もちろん脚本もすごく興味深くて、こんな映画に出てみたい、こんな人物を演じてみたいと思った。俳優はみんな変わった役をやりたいし、いつも同じ役じゃ飽きちゃう。なので全く新しい、新鮮な気持ちで現場に入れました」という。前作「パコと魔法の絵本」では、“奇人”たちに囲まれながら偏屈な大富豪を豪快に演じた役所。本作では、それをさらに上回る“狂人”たちに囲まれながら獣のような最低オヤジを怪演している。「今回もまた強い芝居を求められているんだなと思った。『パコ』の時はああいう派手な扮装だから普通の芝居じゃ弱すぎるというのも分かったけど、今回もすましたものじゃなく“ガツガツ”した芝居、有り余るエネルギーのようなものを中島監督が欲しているのを感じましたね」と全身全霊で期待に応えた。

これまでにも、「下妻物語」(04)の深田恭子&土屋アンナ、「パコと魔法の絵本」(08)のアヤカ・ウィルソン、「告白」(10)の橋本愛ら、独特の鑑定眼で若手女優の魅力を発掘してきた中島監督。今回白羽の矢が立った小松は、「初めての映画でこんなにも素晴らしい俳優さんたちと共演できることは、やはり貴重な体験。難しい役どころだけど、良いチャンスをもらえてすごくうれしかった。濃くて長い濃密な3カ月、撮影中も撮影後もずっと緊張していました」と振り返る。天使なのか悪魔なのか、この物語の最大のカギを握る“バケモノ”と謳われる強烈な役柄だが、「初めて脚本を読んだ時、キスシーンが6人とあるんだなって、つい数えちゃった(笑)。初めての映画で6人とキスシーンというのはやはり衝撃的で……。でも一体どんな撮影になるんだろうって、とにかく楽しみでもありました」と堂々たるもの。最終的には、妻夫木聡二階堂ふみ橋本愛、オダギリジョー、中谷美紀ら、豪華キャストによる“最狂”の布陣が完成した。

役所も、「中島監督は『直感的に小松さんを加奈子だと思った』と言っていた。一見“いい子風”に見えるのはいいことで、でもそれだけだとダメなんです。小松さんは美しい。だけど、その美しさの中に危うい怖さみたいなものもある。親父たちがうるさく怒鳴り散らしている大人の世界で、爽やかに笑っている。そっちの方が怖いかもと思わせる表現には、小松さんしかいなかったんじゃないかな。加奈子の笑顔が一番怖かったよね(笑)」と納得の表情だった。

すっかり“鬼監督”のイメージが定着している中島監督だが、初映画が中島組というのはさぞかし過酷な経験だったのではないかと想像してしまう。しかし意外にも、小松は「周囲からも怖いと聞いていたので覚悟していたのですが、私が緊張しているのが分かるみたいで、緊張させないような現場作りをしてくれました。すごく優しい方で、怖いという印象はなかったですね」という。役所は「優しいですよ。女優さんには特に(笑)」と冗談をはさみながら、「スタッフの人には暴言に近いきつい言葉もぶつけるけれど(笑)、そこにも愛情を感じるんです。だからみんな笑って受け止めている。端から見ると怖い監督と思うかもしれないけど、それは中島監督の粘り強さそのもの。カメラのアングルやサイズ、照明、ひとつひとつ確認しながら、『他にもっとないか?』とスタッフに考えさせる」と練りに練るのが中島監督。そのことを裏付けるエピソードとして、「スタジオで編集している時にちょこっとのぞいたら、『そこ2コマ戻して』とかものすごく細かい指示を出していた。中島さんは全てのプロセスにおいて、自分のビジョンをしっかりと把握しているんだなと改めて感じましたね」と明かした。

そんな中島監督のビジョンを肌で感じられるのも、選ばれし役者の特権。小松は、「監督は手の触り方にこだわっていた記憶があります。お父さんの手に触れる寄りのカットの時、自分では優しく包んでいるつもりでも、中島監督には雑に見えたらしく、『女らしく優しく包み込むように』と言われました。そのカットは何回もやったけれど難しくて難しくて」とどんな些細な芝居にも妥協はない。役所も、「監督に任せるしかないんです。とにかくたくさん撮るけど、どれを使うのかはわからない。私はモニターも見ないし、撮影中はどこから何を撮っているかも意識しない。完成するまで全然わからないですよ(笑)」。

役所がそう語るように、驚かされるのは映画の“濃度”。濃いキャラクターたちがこぞって登場しながらも、なぜかそれぞれが潰し合うことなく“個”として生きている。役所は、「中島監督じゃなければこれだけの素材は撮れないと思う。でもそこに一切の迷いはない。中島監督は自分の映画に対して確かな“方向”を持っているんです。だからスタッフもキャストも安心感がある。役者の芝居がよく見えるように、とにかく色々な努力をしてくれる。役者にとってはありがたい現場ですよね」と感謝した。

そんな膨大な撮影時間の中、父の娘探しというストーリーの特性上、役所と小松の共演シーンはごくわずか。「最低最悪のお父さんということで(笑)、実は1日くらいしかご一緒できなかったんです」という小松は、「私の実家は山梨なのですが、役所さんは山梨にいらっしゃることがあるそうで、私の地元もよく知っていてくれ、それがすごくうれしかった。遠い存在の人だけど、その時からすごく親近感を感じています」と地元・山梨をきっかけに距離を縮めたという。

ポップでスタイリッシュな映像に、油断して身を任せて打ちのめされるのが中島映画の楽しみ方。役所は、「中島監督は常にお客さんを楽しませようとしている。だから常に予想外のものを持ってきたりして、あの手この手を考えている。驚いてほしいって思うことは、中島監督のひとつの個性だと思う。そしてエンタテインメントを撮ると言いつつ、なんだかんだ人間ドラマが好きなんですよね」。

そして中島監督が惚れ込んだ逸材、小松の圧倒的なきらめきにも心奪われることは間違いない。「中島監督は、周りの人がイメージする私を覆してくれる感じがするんです。自分でも知らない自分に気づかされたことがたくさんあった。ふだんなら恥ずかしくて変顔もできないけれど、中島監督に『変顔しろ!』って言われると、カメラの前に向かってでも不思議とさらっとできちゃう。全然恥ずかしくないし、素直に出せちゃうんです。自分はこういうこともできるんだって気づかされたし、新しい“小松菜奈”を引き出してくれた。初めての映画で中島監督の映画に出られたことは、本当に幸せだなと思います」。

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