アメリカン・ハッスル : 映画評論・批評

アメリカン・ハッスル

劇場公開日 2014年1月31日
2014年1月21日更新 2014年1月31日よりTOHOシネマズみゆき座ほかにてロードショー

すべてが誇張されていた時代に愛欲と物欲が複雑にもつれ合う

1978年秋、マンハッタンの〈サックス・フィフス・アベニュー〉で私は革のトレンチコートを買った。明るいチョコレート色で裏地がゴールド。東京では5回しか着られなかった。

アメリカン・ハッスル」を見ていたら、あのコートを思い出した。映画に出てくる服や髪型が、どれもこれも異様に大げさなのだ。服や髪だけではない。態度も言動も、すべてが滑稽なほどに誇張されている。しかも力いっぱい。そうか、「サタデーナイト・フィーバー」や「カジノ」も70年代が背景だったか。

アメリカン・ハッスル」の主役は詐欺師の男女だ。カツラのアービン(クリスチャン・ベール)と偽英国女のシドニー(エイミー・アダムス)は会うなり恋に落ちて、すぐさま犯行を重ね、たちまちFBIの手先になる。ふたりに指示を与えるのは、母親と同居し、髪にカーラーを巻いている捜査官のリッチー(ブラッドリー・クーパー)だ。そういえば、アービンの妻ロザリン(ジェニファー・ローレンス)の髪はドーム状に盛り上がっている。こちらは受動的攻撃人格の神経症ビッチ。

そんな連中が入り乱れて、「スティング」を思わせる罠を張る。狙いは悪徳政治家の摘発らしいが、露骨な物欲と複雑な愛欲がもつれにもつれて、話は錯綜をきわめる。市長(ジェレミー・レナー)はとんちんかんな行動に走るし、リッチーはシドニーに惚れるし、ロザリンはマフィアの幹部と怪しくなるし……。

監督のデビッド・O・ラッセルは演技のアンサンブルを作り出すのが得意な監督だ。ただ、今回のテーマは「この役者たちでどんな話ができるか」ではなく、「この話からどんな芝居を引き出せるか」だったのではないか。俳優陣も期待に応える。とりわけ印象に残ったのはアダムスの多面性だ。脚本の力もあるが、スクリューボール・コメディとマクベス夫人を合成させる技量は強く眼を惹いた。

芝山幹郎

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