劇場公開日 2014年5月10日

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ブルージャスミン : インタビュー

2014年5月7日更新
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ケイト・ブランシェット、オスカー受賞の役柄は「現代の都会的な特性に満ちたキャラクター」

下馬評通り、今年のアカデミー賞主演女優賞を獲得した「ブルージャスミン」のケイト・ブランシェット。「アビエイター」の助演女優賞に続く2度目のオスカー像は、誰もが認める演技派の彼女の場合、納得の結果といえるかもしれない。むしろ今後その女優人生で何度ノミネートされるのだろうと考えてしまうほど。だが本人は、「そういうことは一切考えないわ。考え始めるとナーバスになるだけだし(笑)、キャリアを考えて役を選ぶわけでもない。大切なのは、その役やプロジェクトにひかれるかどうかだけ」と語る。(取材・文/佐藤久理子)

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ウッディ・アレンのラブコールを受けて実現した新作、「ブルージャスミン」は、ニューヨークの社交生活を満喫するジャスミンの急転直下の人生を描く。裕福でハンサムな夫と息子に囲まれ、何不自由のない生活を送っていたジャスミンを襲う、夫の不倫の噂。やがて夫から離婚を持ちかけられ、さらには彼の汚職問題で、文字通り家も財産も失い無一文になる。仕方なく妹のところに身を寄せるものの、タイプのまったく異なるふたりがうまくいくはずもなかった。最近軽妙なコメディが続いていたアレン映画には珍しいほどのシビアなストーリーと批評的な視点を持った本作について、ブランシェットはこう語る。

「この映画はとてもウディ的な、独特のリズムがある。ジャスミンのキャラクターも、彼らしい現代の都会的な特性に満ちている。ジャスミンは一歩間違えたらパロディになりかねない役だけど、ウディの素晴らしいところは、そういった特殊な人にも誰もが共感できるようなシチュエーションをもたらすこと。人間とは所詮みんな悲しい生きもので、パロディのような面があるでしょう。苦境に陥れば誰もがパニックになるし、ときには間違ったことをすることもあれば、自分に適さない人に恋をしたりもするものよ」

もっとも、最初にアレンから声がかかったときは、この役をどう演じたらいいかわからず途方にくれてしまったというのが意外だ。「パニックに陥ったわ(笑)。でもよく考えて、とくに観客の共感を得ることを意識する必要はないと気づいたの。その代わり、彼女に人間性をもたらし、観客が見続けたいと思うような側面を引き出せばいいのではないかと。映画の冒頭から最後まで、彼女の洋服のスタイルは変わらないけれど、それでもそこからたちのぼってくる雰囲気はまったく違う。後半の彼女は生気の抜けたような状態なの。とてもチャレンジングだけど、やり甲斐があったわ」

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たしかにケイト演じるジャスミンという女性は、その唖然とさせられる“自己中ぶり”にもかかわらず、どこか人ごとと思えないような哀愁をたたえる。とくに女性なら、美しいドレスを纏(まと)い、ぜいたくで安定した生き方を望む彼女の心情を、頭ごなしに否定はできないだろう。ブランシェットはこう分析する。

「どこの世界にもジャスミンは存在するのではないかしら。それに経済危機によってそういう人たちが増えたことはたしかよ。自分は誰か、自分はどこにいるのかわからなくなってしまった人たち。ジャスミンは突然の不幸にものごとが見えなくなって、それが人と真にコミュニケートしたり、リアリティを受け入れることを妨げている。彼女は自分のすべての力を放棄して、夫に依存することでアイデンティティを作り上げた。そういう女性は少なくないのではないかしら。とくに裕福な階級の、権力にどん欲な夫と結婚した女性には。そのことは物質的な満足を供給してくれるかもしれないけれど、精神的な安定を必ずしももたらしてくれるわけではないと思う」

ここ数年、演出家の夫とともにオーストラリアのシアターの芝居に携わっていたブランシェットだが、本作のあとは、ケネス・ブラナー監督の「シンデレラ」やテレンス・マリックが同時進行で制作を進める2本の新作など、映画のプロジェクトが目白押しだ。

「芝居と映画の世界を行き来できるのはとても恵まれたことだわ。映画も監督によってとても異なるものでしょう。テレンス・マリックの場合は、何年も前から声をかけてもらっていたの。彼はウディとはまったく異なり、ある種フィルム・メーキングを超えるような、別のアート・フォームを作っている感覚がある。ウディの場合はほぼ脚本通りで、あらかじめどんな作品になるかわかるけれど、マリックの場合はどんな役柄なのか、どんなストーリーなのかもわからない(笑)。それぞれ異なるエネルギーのなかに入って行くような、とてもエキサイティングな経験だわ」

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