「スターウオーズ」スター・ウォーズ フォースの覚醒 デイビー宮さんの映画レビュー(感想・評価)
スターウオーズ
ダースベージャン
この聞きなれない単語は私が「スターウオーズ」の昔からのフアンで、特に悪の権化のダースベーダーの熱狂的ファンであるという意味の私のオリジナルの造語です。名探偵シャーロック・ホームズのフアン「シャーロキアン」、ボンドの熱狂的フアンの「ボンダリアン」に匹敵する世界的に通用するものと自負しています。ちなみに、明智小五郎フアンは「コゴローン」ルパンは「ルパンン」、または「アルセーニャン」。多少無理は覚悟の上です。
スクリーンにダースベーダーが登場したのは忘れもしない1977年のことです。映画配給会社の営業戦略で、アメリカの爆発的ヒットを日本でも再現するためにゴッドファーザーで大成功させた作戦をそのまま使いました。すなわちアメリカ大ヒットしたという情報を先行させて、意図的に日本公開を遅らせます。日本の目先の効いたマニアやオタクっぽい映画フアンの心理をじらすのです。テレビでもそのハイライトシーンだけを抜粋してスポット的に小出しに放映します。小出しですが回数だけはものすごい物でした。しかし当時はそれだけで私を含むマニアたちはすごい特撮と感じました。結局、日本のフアンは1年近くジラされました。
一年近く待たされた結果、いざ蓋を開けたら日本でも記録的な興行収入をあげました。ちょうどその頃から画期的な進歩を遂げたコンピューター技術を利用したこともその要因でしょう。撮影の段階でもロケット一つとってもロケットそのものは動かさず、カメラを前後左右上下にスムーズに動かして撮影するという発想の転換の見事さでしょう。ジョージ・ルーカス、スティーブン・スピルバーグという進歩的な青年の自由な発想のなせる業です。ベトナム戦争の敗戦で元気のなくなった古い保守的な世代を今がチャンスとばかりにジーンズとウッドストック世代の青年たちが打ち破ったのです。固定観念や古い習慣を若い世代のエネルギーが打ち負かしました。ロケットは勢いよく火を噴きながら飛ぶものという固定観念を打ち破ったのです。宇宙空間は無音という事実を逆手に取りロケットの後部の推進部に淡い光を付け加えただけでカメラワークと音響で見事に飛行状態を表現して観客の度肝を抜きました。最初に観客を味方につけるとすべてが好意的に取られます。見事な心理作戦でした。メカニカルで無機質な未来の宇宙世界に、悪役としてコテコテなお伽話の魔法使いみたいな巨人で黒づくめの怪人を登場させたのです。デジタルな世界にそこだけアナログのキャラクターをはめ込んだのです。声がしびれるような低音で不気味な機械的な呼吸音をつけておまけに念力が使えます。背筋を伸ばし中世の騎士か侍大将の風情です。しかしこの孤高の超人が話が進むにつれて理想の世界から落ちこぼれた複雑な立場でどうして?という因縁めいたお話も加わります。家族関係も不安定で人間関係も希薄な現代社会にあえてドロドロとした血の繋がりを提示します。最愛の女性との間の子供とも戦わなければなくなったギリシャ悲劇や歌舞伎の世界です。もっともこの最初の作品が世界的に大ヒットしたから次々に続編が出来たのでしょうが、あまりに上手な商業手段だと言わざるを得ません。そうやこうだで40年です。この超人、ダースベーダーの役は欲を言えばもう少し名前の売れた重量級の役者に演じて欲しかった。チャールトン・ヘストンやマーロン・ブランド、クリント・イーストウッドでもいい。クリストファー・リー 。長年相棒のピーター・カッシングもデススターの司令官役で出ていましたね。声がしびれます。ドラキュラコンビでちょうど良いじゃないですか。ショーン・コネリー?ベリーグッド!でもこれは大ヒットした後だから言えることです。企画や制作初期の段階ではオビ・ワンにイギリスの名優アレック・ギネスでも大成功と言わなければなりません。
主人公のお師匠さんであるオビ・ワンにしても最初の候補は三船敏郎だったそうです。それほど実績を積んだわけでもなく、ただ映像のイメージと熱意だけはある青年監督兼プロデューサーの出演依頼に天下の国際大スターが簡単には乗れませんでした。三船敏郎はその当時の国際的な大スターでした。ルーカスと同世代の仲間のジョン・ミリアスの「風とライオン」の出演オファーも断ったそうです。結局「ライオン」にはボンドを降りて髪と影の薄くなったショーン・コネリーが乗って奇跡の復活を遂げました。ちょうどこの頃からハゲにもスポットライトが当たって来ました。ハゲも人間である。ハゲても人間的な価値には違いはなく、むしろそれだけの経験を積んできた証明であると言う自信を持ち、開き直るという世界の常識が変わり始めたのです。
「Hage? So what? 」「はげ?それがどうした?」 この遠因を作った 三船敏郎さんこそ中年の星と言えるでしょう。
ストーリーもマーケットリサーチに基づく検討や、コンピュータに入力した膨大なデータの賢い検索結果の適切運用でいろんなシチュエーションのデータが瞬時に判断できるようになっており、一番観客受けするような基本ができた上の監督判断です。今まですべての映画の観客を興奮させたタイミングもすべてコンピューターに入力されているでしょう。複雑な囲碁の世界でもコンピューターが名人を負かせました。自動車も自動運転が可能な世界です。ソロ船長の戦線復帰シーンなんて定番すぎますが一番皆が見たいところでの登場です。きったねえなあ。
音楽もわざとタイミングを外したテンポのマーチやレイア姫のロマンチックなメロディー。ダースベーダーの音楽もいいタイミングで映像にマッチしていました。音楽は当時一世を風靡した巨匠ジョン・ウィリアムスです。世界の興行記録を次々に塗り替えた大作・超大作を担当しています。11人のカウボーイからジョーズ、未知との遭遇、ET、スーパーマン、インディー・ジョーンズ、フック。まとめて聞くと皆同じ曲に聞こえるのが欠点ですが、映画を見終えた後はメロディーが耳から離れません。ロサンゼルスの観光スポットのハリウッド・ボウルでトニー・ベネットとジョイントコンサートを開いたことがありました。私も海外出張で偶然このコンサートに行きました。そこで初めて実物のE・Tを見ました。映画は傑作だと日本でも評判は聞いていましたが、初めて実物が舞台に登場したときは私は「なんて いびしい宇宙人!」というのが正直な感想でした。数日後ホノルルで4ドル払って封切り作を見ました。英語はよくわかりませんでしたが、その素晴らしさが伝わり大感激しました。この時のコンサートは観衆も出演者も盛り上がり、11時終演の予定が大幅に伸びて朝の1時まで続きました。アメリカ人のノリの良さに驚きました。おかげで深夜の夜道を歩いて一人でホテルまで帰りました。エンジェルに遭ったまではよかったのですが、大男に後をつけられてホテルまでの数百メートルは全力疾走で逃げました。アメリカの夜道の一人歩きは本当に怖かったです。その後、ジョン・ウィリアムスはアカデミー賞候補の常連になりました。
スターウオーズもすぐに3作まで作られていずれも大ヒットしました。第一作が予定外のヒットしたために急きょストーリーを考えたようですが、今までの映画遺産のビッグデータをコンピューター利用して上手につじつまを合わせて創作したのでしょう。やはりオタク、天才たちが集まってコンピューター利用した跡が伺えます。大衆の望むツボを上手に押さえています。義理人情、親子の絆、自己犠牲、愛情の機微、忠誠心など現代人が失いがちな古き良き精神性、アメリカ人や現代人が憧れる内容でしょう。
第一作の登場時からダースベーダーは圧倒的な存在感を放ちます。昔から悪役が強くなければ主人公が引き立ちません。ボンドにブロフェルド、武蔵に小次郎、月光仮面にドクロ仮面、映画のセオリー通りです。そして、第2作ではダースベーダーが主人公の父親だったと明かして観客を不思議なサスペンス状態に陥れます。そして第3作では窮地に陥った息子を命を懸けて救うのです。まるでシェークスピアや歌舞伎の展開で観客を無理やり納得させるのです。これで一連のシリーズには一応ピリオドが打たれますが観客は納得しません。
それから長く時間を置いた次のシリーズでは、あらたに前日譚としてスタートします。前述の3つの映画が4・5・6章と後になって銘打たれていました。今回の第1章では長編大河物語の始まりの部分です。ダースベーダーはかわいい子供として登場します。順調に冒険しながら成長して次回作(第2章)では少し反抗期の美青年で登場します。少し悪に魅力を感じはじめます。つぎ(第3章)では美しいお姫様に恋をしてしまいます。ラスト近く、このお姫様が双子を出産しますが無理がたたって死んでしまいます。自身も瀕死の火傷を負い手足の自由と呼吸機能を失いますが、悪の帝王のおかげであの恐ろしい仮面(呼吸装置)をつけて不気味な呼吸音とともに蘇ります。このダースベーダーの再生シーンは観客は今までの経緯を知っており、その後の経過も十分承知しているので2重、3重の感情のうねりが起こり鳥肌が立ちました。見ている人の自律神経までコントロールしたのです。これぞ「ザ・フォース」そのものでしょう。第一作では「理力」と名訳されていましたが、英語力がついた現代人にはそのまま「ザ・フォース」で通じました。時代の流れでしょうね。しかし、この感動のさせ方は並ではない感情移入と感情操作です。純愛と喪失、希望と絶望、正義と悪。本当に見事な展開が続きます。
年末に封切られた新シリーズは前回の作品群から30年後という現実と同じ設定です。この新作を皮切りにまだ数年かけて少なくてもあと2本は続く予定です。順調にいけば(いかなくても)映画の歴史に残るシリーズになるでしょう。正義が勝っても悪が勝っても、少なくてもダースベーダーのDNAはどう転んでも生き残るでしょう。
映画の歴史を変えた撮影技術、古典的な人間模様、ダースベーダーをリアルタイムで鑑賞できたことは映画フアンにとってまさに幸運の極みといっても過言ではないでしょう。ちょうど3大テノールの舞台を生で見たようなものです。百恵ちゃんの引退興行、ビートルズの日本公演、孫にもひ孫たちにも自慢できるでしょう。
MAY THE FORCE BE WITH YOU.
理力があなたに有らんことを!