「「でも、やるんだよ!」にノレルか否か。」TOKYO TRIBE Opportunity Costさんの映画レビュー(感想・評価)
「でも、やるんだよ!」にノレルか否か。
退屈な部分は多いものの。
…全部を嫌いにはなれない作品でした。
圧倒的な熱量が込められた作品を出し続ける園子温 監督。
その愛の暑苦しさにアテられる可能性が高い、人によって好き嫌い、合う合わないがパックリ。
その基本姿勢を維持し続ける心意気にグッときます。
本作も通常運転。
ラップ・ミュージカルと銘打ち、全編通してラップの応酬。
腹に響くリズム、耳に流れ込むライム。
入れ替わり立ち代り登場するプロ達の狂宴。
聴覚的な魅力は十分あると思います。
ただ惜しむらくは視覚的な残念さ。
園監督の偏愛を受け止め表現する俳優陣が殆どいなかった。
ラップ・ミュージカルのラップ部分を重視したため、演技は稚拙な感が否めない。
話の本筋を担うトライブの面々はプロのラッパー。
確かにラップは巧いが俳優陣と比べて顔力が断然低い。
当然、演技も決して巧くは無い。
街でリアルにあったら腰が引ける迫力だと思いますがスクリーンに映ると何処かポカン顔。
魂が抜けたような表情により没入感が薄れてしまいました。
前作「地獄でなぜ悪い」。
園監督の偏愛を受け止め表現する俳優陣が非常に良かった。
國村隼、堤真一、二階堂ふみ、星野源、友近、長谷川博己。
表情や声の抑揚で示す狂気、繋ぎ止められる緊迫感。
圧倒的な熱量が俳優陣を通して表現されることで只々圧倒され濁流に呑み込まれる感覚を味わうことが。。
その点、本作は途中途中で正気に戻ることがしばしば。
源流からは圧倒的な熱量が出ている印象はあるものの、スクリーンを通して観客まで届いていない感がありました。
正直、中折れ感が半端無かった。
観客側は正気に戻っているのに演者側は夢の世界を続ける。
その姿は哀しく滑稽で……116分の中盤以降は退屈で苦痛でした。
とはいえ本職の役者陣は随所で活躍。
本作の見所はブクロを牛耳るブッパを演じる竹内力。
竹内力がいなかったら本作は成立していなかった位、大貢献。
常に白目を剥き、呂律の回らない台詞と大袈裟な動きが画面に映える。
妻であるエレンディアを演じる叶美香との絡みも非常に良かった。
叶美香の「アラアラ、コマッタコネェ」という拙い演技を超越する揉みし抱き無双。
その無頼漢に痺れました。
あとはストーリーテラー役の染谷将太は安定の良さがありました。
序盤のラップに不安を感じざるを得なかったものの、徐々に持ち直して。
終盤のワンカットの場面はグッときました。
彼自身の或る種の成長譚でもあったと思います。
また彼の濁った虚ろな目はこの世界観にもマッチしてました。
逆に世間的に評価の高い清野菜名は個人的にはイマイチ。
体を張ったアクションは派手で格好良かったのですが。
複数あるバトル場面の既視感が強く、中盤以降は正直飽きてました。
相方の坂口茉琴も含めてバリエーションが少ない点は本当に残念でした。
ラップ・ミュージカルのラップ部分を重視した結果、全体の熱量や緊迫感を失った本作。
本職のラッパーを多数起用することで画面が弱くなる点を重々承知した上で「でも、やるんだよ!」と本作を仕上げた園監督の蛮勇。
話自体の面白さとは別として嫌いにはなれない作品でした。
園監督の作品群が好きな方、ラップシーンが好きな方。
オススメです。