「五次元の旅人」インターステラー ロロ・トマシさんの映画レビュー(感想・評価)
五次元の旅人
自分、熱心なクリストファー・ノーラン信者ではないのですけども、彼が宇宙モノをやると知った当初は戸惑ったんですよね。んー、んーいや、違うか。宇宙モノやることに対しては違和感なかったんだ。予告を観た時ですね、戸惑ったのは。「えっ何これノーランらしくない」と思って。
いつもなら予告からでも、こう、迸るでしょ。ワクワク感というか昂揚感が。それを全く感じなかったんですよ(感じた方は御免なさい)。ノーラン節全開!みたいな“らしさ”がなかった。多分ね、これ生粋のノーラン信者も戸惑った部分だと思うんですよ。
ですから公開前は自分、「これじゃあちょっと観る気にはならねえや……」と。劇場に足を運ぶの、渋ってた時期があったんですよ。
でも、思えばノーランって荘厳というか壮大というか、やたらと自然の奥行き、空撮での雄大な風景を場面場面で挟みたがる人だなあ、と思ってて。多分『バットマンビギンズ』辺りからそれが顕著になってきたのかな。その延長線上にこの映画はあるのかもしれないな、と思い直したんです。星間移動や惑星探索がメインになってくるから、好きなだけ大自然を映し出せますもんね。
これまで撮ってきた映画はそのテーマ上、景観をそんなやたらめったらの大分量で入れる訳にはいかなかった。例え入れても大いなる蛇足にしかならない訳で。今回は存分にヴィジュアル革命が出来るしなあ、と。
ま本人がそんな風に思っていたかは兎も角。
映像はこれまでのノーラン作品よりも破格の美しさで迫っております。
圧倒される宇宙空間、未知の惑星風景、前人未到の未体験ゾーン……の数々で、それはそれは大成功を収めておりますね。ああ映画館で映画を観ているなあ、という満足感。
そして何より、これは正真正銘クリストファー・ノーランの映画だということですよ。観ながら安堵しましたね。間違いなくノーランです。当初に感じていた不安は杞憂だったのです。
『メメント』『プレステージ』『インセプション』等で魅せてきた見事な伏線張りの総決算と言うべき作品ですよ。見事というほかない。冒頭で持ち上がった謎がクライマックスで次々に明かされていく気持ちの良さというか腑の落ち方、その答えに背筋がゾクゾクとするほど打ち震えましたね。
高尚で難解なテーマを扱いながらも、それを彼らしさで処理していく物語捌きの妙味。キューブリックの件の映画にもしっかりと目配せが出来る配慮の良さ(人工知能搭載のロボットがモノリス型だったり)。
彼が本当に撮りたかった映画は『インセプション』だと思ってたんですけど、あれは通過儀礼だったのかもしれません。本懐はここにあったんじゃないかしら。
『インターステラー』。大傑作です。