劇場公開日 2013年7月13日

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ベルリンファイル : インタビュー

2013年7月10日更新
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韓国の新鋭リュ・スンワン監督、新作スパイアクションで描く北朝鮮の実態

韓国を代表する俳優ハン・ソッキュと、「哀しき獣」で注目を浴びたハ・ジョンウが共演したスパイアクション「ベルリンファイル」。ベルリンで暗躍する北朝鮮諜報員が、韓国情報院エージェントに追い詰められ、巨大な陰謀に巻き込まれていく姿を映し出し、本国で観客動員700万人を突破した。「相棒 シティ・オブ・バイオレンス」「生き残るための3つの取引」などに続き、激しいアクションとドラマを融合させたリュ・スンワン監督が、本作について語った。(取材・文/編集部)

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北朝鮮諜報員ジョンソン(ジョンウ)は、武器取引現場を韓国情報院エージェントのジンス(ソッキュ)にかぎつけられる。取引の情報が南側に漏れた原因を探る最中、ジョンソンの妻ジョンヒ(チョン・ジヒョン)に二重スパイ疑惑が浮上。後輩のミョンス(リュ・スンボム)から情報を得て真相を探るが、ジョンソン自身も巨大な陰謀に巻き込まれていく。

前作「生き残るための3つの取引」で、警察内部の腐敗をあぶり出したスンワン監督が、今作で挑んだのは公私で揺れるスパイの苦悩だ。「正体を隠し、最も身近である夫婦関係においてもすべてを話すことができない生き方をしている人々」の心理状態を描くことで、新たなテーマに切り込んだ。「自分が生まれた国ではない第3世界で、アイデンティティを隠して生きているスパイの世界に興味を持つようになりました。現在、経済の中で情報収集をすることでスパイは動いていますが、韓国では依然として冷戦時代のようなスパイ活動が実際に行われています。そういう物語を描きたい、また私がやるべきことだと感じて、構想を練り上げました」

冒頭から、リュ監督ならではの激しいアクションと緊迫感に満ちたドラマが展開される。スンワン監督は「登場人物の心情が本当にリアルなものなのか」ということを常に自問し、4人の役者とともにエンタテインメントとして完成させた。取材中も出演陣への信頼をにじませ、「彼らの個性はまったく違ったもの。共通点をひとつあげるなら、4人とも非常に誠実な俳優で、演技力を兼ね備えたスターであるということ」と称賛を惜しまない。「ハン・ソッキュは、何か注文をしなくても自ら道を見出していく俳優。ハ・ジョンウは、小さく細やかな表現が観客に大きく伝わっていく。チョン・ジヒョンは演技に対する熱意、渇きがとても大きな女優」と称え、これまでにもタッグを組んできた弟で俳優のスンボムについては「集中力が非常に優れていて、撮影中は完全に劇中の人物として生きていた」と感心しきりだ。

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リュ監督は、北朝鮮と韓国の対立構造を描くため、アジアではなくベルリンを物語の舞台として選んだ。「この映画の登場人物たちの職業がNGOの活動家や、医療奉仕をしている人々だったとすれば、舞台は別のところになっていたはずです。でも、この映画は国家情報を扱う人々の話なので、彼らの活動舞台はベルリンが最もふさわしい場所だと考えたんです」。さらに、ベルリンと北朝鮮、韓国の政治や歴史上の接点にも触れる。「ベルリンは現在、北朝鮮の最も大きい大使館がある都市です。また、1980年代までは、韓国とドイツは冷戦と分断の2大象徴でした。そういった点がベルリンを選ぶ上で作用したのです」

“南北対立”というセンシティブなテーマと向き合う上で、最大の壁となったのは「私をはじめ、多くの人々が北朝鮮の実態や現実についてよく知らないということ」だった。「どうすれば歪曲せずに表現できるのか、ということが最も難しいポイントでした。多くのハリウッド映画で、アジアがおかしな描かれ方をしていることがあります。そういった失敗をしたくなかったんです」と振り返る。時に非公式な取材も敢行し、北朝鮮関連の専門記者、北朝鮮の情報を担当していた情報局員、脱北者らの協力のもと、「北朝鮮という閉ざされた国で生きている人々の物語」にアプローチ。幸運にも、本作のようなスパイ活動を行っていた人物との対面も実現し、北朝鮮の実態に触れた。

「我々製作サイドが最も大切に考えていた姿勢は、北朝鮮も人間が住んでいる場所であることを見失わないようにするということでした。北朝鮮の人々も感情を持ち、自分の考えで言葉を話す。自分の意志を持った人々が住んでいるということです。北朝鮮の描写をする上での大きな過ちのひとつが、少数の指導者によって機械的に生きている人々を描くことだと思うんです。それは、北朝鮮の実態というよりも、人々が頭の中に存在する機械的な世界です。今までは、そういう描写がされてきたように思います。この作品では、登場人物たちが北朝鮮出身の人々ではあるものの、政治的システムに焦点を置いたわけではありません。私にとって重要だったのは、そのシステムの中で生きている個人、そして個人と個人の関係なのです」

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