「「あなたの、生涯の1本を塗り替える」力を持たない凡作」ラッシュ プライドと友情 tochiroさんの映画レビュー(感想・評価)
「あなたの、生涯の1本を塗り替える」力を持たない凡作
日本語吹き替え版で鑑賞。
私は別にモータースポーツのファンではないし、その種の映画も「栄光のル・マン」くらいしか観ていないが、当時の「サーキットの狼」を起点とするスーパーカーブームの中で、ニキ・ラウダの事故と奇蹟的な復活は知っていた。
そのニキ・ラウダとライバルのジェームス・ハントを主役として、あのロン・ハワードが生命を懸けた極限の世界に生きる男達の戦いを描く。さぞかし熱いドラマが見られるだろうし、現代のCG技術を持ってすれば昔の映画では描けなかった迫力あるレースシーンも見られるだろうと大いに期待していた。しかし実際の映画からは、残念ながらそんな熱いドラマも、予想を超える迫力のレースシーンも見られなかった。
ニキ・ラウダとジェームス・ハントの、互いに正反対の性格のライバルが、お互いに反発しながら認め合う微妙な関係の中で、切磋琢磨しながら戦友に似た感情を育てるストーリーは分かるが、それは他のスポーツや格闘技を題材にした実話や映画・小説でも散々描かれてきた。実話を元にしていると言っても、この作品がそれらを凌駕しているとは言いがたい。
レースシーンも俯瞰やアップの切り替えが小刻みすぎて、期待したほどの迫力や臨場感に欠けている上、無意味なバルブのアップにも気を削がれる。
ジェームス・ハントの奔放な性格を表す為にSEXシーンが多用されているが、いくら何でも知り合ったばかりで、しかもより職務への忠実さが求められる専門職(看護師や航空アテンダント)の女性が、職務を放棄してSEXに溺れる等と言うのはあり得ないだろう。またハントがラウダの顔の事で心無い質問をした記者を殴るシーンも、あれは完全な暴力行為で本来なら警察沙汰になってもおかしくない。これらは明らかに過剰演出で無理があると思われる(もし事実であればゴメンナサイだが)。
ラウダの事故についてハントが責任を感じる事についても、そもそも開催に否定的であったにせよ、最終的に出走したのはラウダの自己責任であるし、事故の原因は(この作品では)雨によるスリップや視界不良ではなく、整備不良によるマシントラブルであることが分かっているので、感情移入することができない。
正直、私にとっては「看板に偽りあり」の凡作でしかなかった。
エンドクレジットの後に取って付けたように始まるKinKi-Kidsの歌は日本公開版だけかと思うが、まるでプロモーションビデオを見せられているようで、ファン以外には全くの蛇足でしかない。これから観ようと思っているKinKi-Kidsファン以外の人には、是非とも字幕版での鑑賞を勧めたい。