「ミステリーとファム・ファタールとどんでん返し」鑑定士と顔のない依頼人 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
ミステリーとファム・ファタールとどんでん返し
感動作だけじゃなく、ミステリー作にも手腕を奮うジュゼッペ・トルナトーレ。
「題名のない子守唄」は非常に面白かったが、こちらも上質のミステリー!
超一流の鑑定士、オールドマンの元に舞い込んだ依頼。
ある屋敷の美術品の数々の査定を引き受けるが、奇妙な事に依頼人である女主人は一切姿を見せず…。
姿を見せない依頼人に時折苛立ちを露にするオールドマン。
依頼人は怒ったり謝罪したり、コロコロコロコロ態度が変わる。
翻弄されながらも、何か惹き付けられていく。
主人公よろしく、見る側もこの奇妙な依頼人と設定に引き込まれていく巧いプロットだ。
女主人は一体どんな人物か?
その顔は?
最後まで焦らせて焦らせて、それ一本で話が進むと思いきや、唐突に。
どうしても依頼人の顔が見たいオールドマンは、ある日、帰ったと見せかけて物陰に隠れ、依頼人が籠りきりの部屋から出てくるのを待つ。
その瞬間はすぐに。姿を見せた依頼人は…。
ここでミステリーからファム・ファタール物へ。
魅惑的な依頼人にオールドマンはすっかり虜に。
元々女性と接するのが苦手なオールドマンと広場恐怖症の依頼人クレア。
少しずつそれを乗り越え、距離を縮め、共に歩む事を決心する。
オールドマンが今の地位も名誉も捨てたその時…!
ジェフリー・ラッシュの名演。
エンニオ・モリコーネの流麗な音楽。
それらと巧みなストーリーが合わさり、全く飽きさせない。
女性と接するのが苦手という一面がありながら、プライドが高く偏屈な性格のオールドマン。
インチキ・オークションで女性肖像画を多くコレクション。
その共謀者で、オールドマンに画家の道を諦めさせられた男。
オールドマンの恋の指南役となる機械職人の若い男。
そして、魅惑的な女性。
張られた伏線が繋がり、ミステリーからファム・ファタールからどんでん返し。
ラストのオールドマンの姿にどんよりするもの感じつつ、二転三転する展開に魅了されっ放しであった。