劇場公開日 2014年6月14日

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私の男 : 映画評論・批評

2014年6月10日更新

2014年6月14日より新宿ピカデリーほかにてロードショー

血の渇きにも似たグロテスクで官能的な世界

直木賞を受賞した桜庭一樹の同名小説の映画化である。北海道出身の熊切和嘉監督は「海炭市叙景」で函館の寂れた風景を鮮やかに切り取ったが、今回は雪に閉ざされた港町紋別を舞台に、禁忌である2人の男女の関係に踏み込んでいく。

冒頭、奥尻島の大地震による津波で孤児となった幼女・花(山田望叶)を、遠い親戚を名乗る腐野淳悟(浅野忠信)が引き取るまでのエピソードは、記憶の残像のような粒子の荒い16ミリで撮られている。ざらついた画面の奥底で孤独な魂が合い寄るような悲痛さが浮かび上がってくるのは、茫然自失した山田望叶のイノセントな表情の魅力によるところが大きい。

そして中・高生の花を演じる二階堂ふみは無垢と底知れぬ淫蕩さが奇妙に同居する妖しい少女へと著しい変貌を遂げている。その落差をつつみこむように、絶えず不安を掻き立て、不協和音のように内面に響いてくるジム・オルークのスコアが際立って印象的だ。さらに、厳寒の閉塞した紋別の町の佇まいをクリアにとらえた近藤龍人のキャメラが見事である。とりわけ、町の大立者・大塩(藤竜也)が寒風吹きすさぶ中、オホーツクの流氷に流されていくシーンは、35ミリフィルムならではの質感、異様なリアリティに圧倒される。

ただし、後半、花と淳悟の逃避行と惨劇の舞台となる東京へ移ると、ややドラマ的な緊張が失速する。それは、必ずしもデジタル撮影というルックの変化によるものではなく、養父である淳悟と花のインモラルな結びつきには、北海道という風土性がいかに不可欠であるかを物語っているのかもしれない。

海炭市叙景」のような断片的なスケッチの集積による群像劇ではなく、抜きさしならぬ悲劇の連鎖である本作において、熊切監督は、あたう限り2人の主人公の内面に深く分け入り、血の渇きにも似たグロテスクで官能的な世界を現出させた。

高崎俊夫

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