「失敗の理由」ジュピター LRさんの映画レビュー(感想・評価)
失敗の理由
どうしてこんな何のヒネリも深みもない映画をウォシャウスキー姉弟が作ったのだろう?まさかと思うが、そのまま終わる。
ただ、断片的に接続しないシークエンスや明らかに孤立しているシーンが所々にあってそれらを解釈していくと、これは恐らく頓挫した壮大な作品の残骸なのだと気付く。
1つ。
資本主義、つまりお金が様々なレベルで解決出来ない問題として通奏低音になっている。
ジュピターの父が死んだ理由、ジュピターが発見された理由、ジュピターが地球で行っていること、家族の諍い、地球誕生の理由、敵も味方も全て資本主義に支配されている。
とても大きなテーマなのに表に出てくることなく終わる。
2つめは
そして過剰にコミカルに、過剰な未来世紀ブラジルへのオマージュがある。
この辺のもはや理由など誰もさかのぼれない、維持のための維持、管理のための管理、端から見るとコミカルでしかない。
おそらくこれらの機構そのものをシニカルに見せる効果のためのシーンだった。
その為にギリアム(と彼が撮った作品の共通性)の持つイメージ自体も持ち出している。
3つめは意図的にスケールが伏せられていること
諍いを起こしている家族が連邦のの中でどの位置を占めているのか一切書かれていない。
政治システムも書かれていなければ彼等の属している社会もほとんど描写がなく、1家族と治安機構の一部だけをあえ描いている。
王家が取り巻き数人以外からまったく特別視されていない。連邦というザックっとした説明があるだけで連邦がどういったものかの説明はない。
1家族の遺産問題と保安官事務所くらいのスケールかもしれないとあえて思わせている節がある。
これら設定はテーマに関する部分だったように思うが、残されたまま使われていない。
それ以外にも必要のない細かい設定が散見する。
結果としてシンプルなシンデレラ風スペースオペラになっている。
監督はティーン向けに作ったといっている。
が、ティーンを含めた全年齢対象に名作を作ることが出来る才能を持っているのはマトリックスの成功で誰もが知っている。
たぶん、途中でティーン向けの映画として終わらせるしかなくなったのではないだろうか。
あれだけ音楽に拘る監督なのに今回は殆ど出来合とも思えるありきたりなスコアをのべつBGMとして使っている。
映像は所謂コンピューターゲーム系の映像でかなり古さを感じが一部の美術デザインに過剰なディティールが加えられている。
また不自然すぎるほど、わざとらしい情緒的な台詞が付け足されているような気がする。
この辺の違和感も途中から路線を変更して完成と予算緊縮がトッププライオリティになって、でっち上げているからだろう。
恐らく3部作以上の構想で1個人の運命をどんどん俯瞰していく所から始まる、タイタンの妖女、百億の昼と千億の夜、あたりのアプローチをしたかったのではないだろうか。
またリンチがデューンを失敗したときの雰囲気がある、ディレッド・メインの怪演とスティングの怪演とか無駄にエロイプロップとか。
リンチのデューンは趣味を全回にして華々しく散っているのと違い本作は慌ててまとめようとしている感が強い。リンチとの違いは背負っている経済的責任の範囲の大きさだったのだろう。
少なくとも才能のある監督なのだから失敗するにしてももっと壮大に失敗したほうがよい結果になったかも知れない。
時代を変える1本を作った監督だから、今後いくら失敗しても許すけど。