「シューーーール!」ホーリー・モーターズ kossyさんの映画レビュー(感想・評価)
シューーーール!
勝手な解釈で申し訳ないが、ひと言で表せば“高度なイメクラ”。俳優が様々な依頼主から仕事を貰ってロールプレイングする。しかし、一時の満足を与える雇われ俳優ではなく、夢を与え、幸福感を与え、恐怖を与え、悲しみを与え、世の不条理を与える・・・時には殺し屋役の俳優に本当に殺されてしまったりする。
冒頭のカラックス監督本人の舞台から始まるものの、観客は皆死んでいるかのように動かない。赤ん坊や大きな犬が通路を歩いていても知らん顔。作られた演劇が全て無感動になっている世の中で、個人的に接することで人に感動を与えるような。そんなリムジン俳優の1日の物語なのだと解釈しました。
物乞いする老婆、モーションキャプチャー・アクター、地下の怪人~「美女と野獣」のごとき恐怖シーン(ゴジラのテーマ曲が斬新)、初パーティ帰りの少女アンジェリカの父親、アコーディオン弾き、中国の殺し屋、銀行家殺害犯、姪レア(=エリーズ)が悲しむ死に際の老人、かつての恋人ジーンとの再会、そして「自宅」。数えたら11に満たない・・・(汗)。
それぞれのエピソードがシュールな映像や展開を含んでいて、現実とはかけ離れているのも特徴ですが、最も強烈だったのが演技をしていない廃デパートでの邂逅シーン。いきなりのミュージカル風ラブロマンスでもあったが、元カノジーンもまた俳優業だったのだろう。それが、恋人との飛び降り自殺だったとは・・・唖然。現実が辛い・・・
「自宅」で会う家族がチンパンジーだという意外性もシュールだけど、すでに人間の世界に失望しているオスカーだったのだろう。そしてタイトルの「ホーリーモーターズ」も印象に残ります。運転手セリーヌにしても雇われの身であり、彼女自身も俳優を操る仮面の女。さらにリムジン自身も仕事が終わると、使い捨てにされると愚痴をこぼす。
映画のような人生というより、人を豊かにするのも喜怒哀楽を与えるのも映画そのもの。無機質な世に一石を投じた作品なのかもしれませんね。それにしても指を食いちぎられた写真家助手のジェイミーが気になるところ。