劇場公開日 2013年4月6日

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ホーリー・モーターズ : 映画評論・批評

2013年3月26日更新

2013年4月6日よりユーロスペースほかにてロードショー

消費されない人生の記憶を身体の中に堆積させる怪獣のような映画

主人公の男の職業は一体何なのかと、誰もが思うはずだ。クライアントから注文があると指定の人物に変装して白いリムジンに乗って指定の場所に行き、指定された人物として行動する。単に指定された行動をするのではなく、その人物になり切って、その人物なりの行動をする。指定の人生を生きる、と言ったらいいだろうか。それが職業というよりも、リムジンに乗る度に違う人生が始まる、そんな繰り返しを生きる人なのである。

それぞれの人生にはシナリオがあるわけではない。リムジンに乗る度に違う人生が始まるその設定自体はまるでゲームのようでもあるが、ゲームではない。掛け替えのない、取り返しのつかない出来事が、彼に襲いかかる。変装して違う人物になるその過程の中で、それぞれの人生がリセットされるわけではなく、ひとつひとつが忘れられない何かとして、こらえきれない痛みとして、積み重なって行くのである。

決して消費されない何ものか、質量を持つ影のようなものがスクリーンから漂い出し、それを観る私たちの人生に折り重なる。映画が終わるとそれも終わり、ではない。主人公の人生のように私たちもまた、多くの映画を観る度に違う人生を生き、そしてその人生がリセットされることなくこの身体の中に堆積して行く。いつしかそれが、この人生より巨大なものとして私たちを内側から食い破るだろう。そんな怪獣のような映画が、ここに生まれた。

樋口泰人

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