「ゴジラではないが、これもゴジラなんだよ」GODZILLA ゴジラ ありーんさんの映画レビュー(感想・評価)
ゴジラではないが、これもゴジラなんだよ
ゴジラ第1作のエッセンスが詰まっていると聞いていたので
結構期待していましたが、その思いは完璧に裏切られました。
このゴジラは、第1作のゴジラではなく、平成VSシリーズのゴジラにずっと近い。
というか、立ち位置的にはガメラと言ったほうが近いかもしれません。
まず、ゴジラの設定が「人類の愚かな核実験によって生まれた怪物」ではなく、「超古代から存在し、自然の調和を守護する地球神」という位置づけだったのが、
一番の肩透かしでした。
「放射能を食う」という設定はあるものの、それは別に人間のせいではなく、生来の習性らしいです。
「あんな恐ろしい化け物を作ってしまったのが、他でもない我々人類だなんて!」という、現代人類に対する強烈なアンチテーゼがない。
「この設定なら、ゴジラじゃなくていいじゃん。。。」と思いながら見てました。
人類の過ちが怪物を作った、という意味では、ゴジラの他に出てくる「ムートー」という怪獣のほうが、それに近いです。
このムートーも放射能を食う怪獣で、原発のエネルギーで成長して暴れ回ります。
ただこのムートーも、人類の技術の誤算によって生まれたのではなく、あくまで人類は成長を促したに過ぎません。
ストーリーに原子力が大きく絡んでいるにもかかわらず、怪獣の出自そのものに(人間の作った)原子力が絡んでいるわけではないのです。
ゴジラと人類は劇中でほとんど全く戦いません。
人類が敵視しているのはムートーであり、破壊シーンもムートーの方が多い。
原子力によって成長したムートーを、何とかしなきゃならないと焦る人類。
しかしムートーには全く歯がたたない。
その戦いに、横から「地球神ゴジラ」がやってきて、ムートーを葬り去って帰っていく。
ゴジラは人類のことなんて眼中にありません。
実際、平成VSシリーズのゴジラも似たような感じだったので、これはこれでゴジラなのですが、
第1作を期待すると完璧に当てが外れます。
人類に明確な敵意を持ったゴジラと、それに蹂躙される人類、という構図が見たかった。
ではムートーがその役割を負っているかというと、それもまた全然違う。
ムートーも、人類のことなんて眼中になくて、ただ単に「繁殖したい」という欲求だけで行動しています。
そして、ゴジラが「てめーらすっ込んでろ!」とムートーを蹴散らす。
つまり、この映画の基本構造は「勝手気ままにやりあう怪獣と、それを傍観するしかない人類」なのです。
もちろんそういうスタンスも、怪獣映画の王道なので、悪くない。
悪く無いですが、でもこれを「ゴジラ」でやる意味はない。
ただ、では直ちにこの映画の製作陣が「ゴジラのことをわかっていない」ということになるかというと、そういう話にはなりません。
そもそもゴジラのアイデンティティをさんざんに破壊してきたのは、ほかならぬ日本であり、東宝であり、本多猪四郎です。
この映画よりもはるかに「ゴジラらしからぬゴジラ」は数えきれないほどありました。
ゴジラ映画の歴史自体が、ゴジラ像の破壊と、原点回帰しようとしては中途半端に終わった失敗の連続の上に成り立っているので、ある意味この映画はゴジラの歴史をよく踏襲しているのです。
そして、第一作のあの痛烈なアイロニーのこもったゴジラ像の復古を求めること自体が、とても儚い希望であるということも、ゴジラが好きな人であればあるほど理解していることだと思います。
私は「こんなのゴジラじゃない」という言葉を並べてきましたが、冷静に考えるとゴジラの歴史自体「こんなのゴジラじゃない」の連続だったと思うので、
私は少し「ああ、ゴジラが帰ってきたな」という嬉しさも持っているのです。
ハリウッド版の続編が出たら、絶対に見に行くと思います。
「今度のゴジラはゴジラなんだろうな」と確かめにいくために。
さて、文句ばかり書いてきましたが、良い所もたくさんありました。
まず、ゴジラの咆哮にはジーンと来るものがありました。
特に初めてゴジラの全体像が映り、雄叫びを上げたシーンは、涙が出そうだった。
「ああ、ゴジラお帰り」って思いました。
あの姿には、理屈抜きにゴジラを感じました。
だから、私はこのゴジラをゴジラではないと切り捨てることはできません。
また、終盤のゴジラの圧倒的強さにも満足しました。
「この世界観で熱戦吐くのかな?」と心配していましたが、ちゃんと吐いたので満足。
ゴジラの戦闘シーンが少ないという人も多いようですが、私はその点は不満はありません。
(ただ、ムートーの破壊シーンの方が圧倒的に多いのは、なんだかなあ、とは思いました。)
次に、音楽はとても良かった。あの重低音の鳴り響き方、単調なフレーズの繰り返し。
伊福部音楽をリスペクトしつつ、ハリウッドらしくまとめてきたな、という印象です。
映画が終わったあとも、しばらく口ずさんでいました。
また、前半の、まだ怪獣が出てきてない頃の不気味さは秀逸でした。
だいたい筋書きは読めるものの、「この先どうなるんだ?」という子供ながらのハラハラ感が持てました。
ムートーが動き出そうとし始めるあたりは本当にドキドキしました。
あと、ムートーという怪獣の気持ち悪さが素晴らしかった。
私は今まで、一番気持ち悪いゴジラ怪獣はデストロイアだと思っていましたが、ムートーはもっと気持ち悪かった。
本能的な嫌悪と畏怖を同時に呼び覚ますあの造形には、拍手を送りたい(嫌味じゃないですよ)。
最後に、人間ドラマはなかなか良かったです。
特に、執念にとりつかれたお父さんの正しさが証明されるあたりのくだりは。
とにかく、失望と不満はたくさんあったものの、なんだかんだで楽しんでしまった自分がいるし、次回に期待したいという思いもまたあります。
どうか、またゴジラをスクリーンで見たい。