GODZILLA ゴジラ : インタビュー
ギャレス・エドワーズ監督「GODZILLA」に注入した熱き思い
日本映画が誇る至宝が鮮烈に、そして圧倒的な存在感を持って復活した。担い手は英国出身のギャレス・エドワーズ監督。長編2作目での大抜てきだったが、「僕がゴジラを選んだわけではなく、ゴジラに選ばれたんだ」と冗談めかしつつ、確かな自信をうかがわせる。米国をはじめ世界各国でヒットを記録しているが、「日本でヒットしない限り、これは外せない」と左手首にはめた願掛けのブレスレットを示す。ゴジラの故郷・日本での成功に向け、エドワーズ監督は何を思う。(取材・文・写真/鈴木元)
エドワーズ監督は2010年、脚本、撮影も兼ねた「モンスターズ 地球外生命体」で監督デビュー。モンスターの出てこないモンスター映画という斬新な設定、低予算とは思えないVFX映像のクオリティの高さなどで一躍注目を集めた。次回作に同様のジャンルは想定していなかったが、「GODZILLA」となれば話はガラリと変わってくる。
「ほかの作品だったら断っていたかもしれないけれど、ゴジラだったから。だって怪獣の王だから、断ることは考えられなかった。前作が田舎のサッカーの試合だとしたら、ゴジラはW杯の決勝戦ほどの違いがあるからね」
しかし、ハリウッド製作の「GODZILLA」といえば日本のみならず世界中のゴジラ・ファンには“トラウマ”がある。1998年のローランド・エメリッヒ監督版だ。その似ても似つかない造形は神(GOD)を取った「ZILLA」と揶揄(やゆ)されるほどだった。エドワーズ監督も思いは同じだが、その“前作”に起因したプレッシャーもあったという。
「気に入らない人はたくさんいるだろうし、理由もよく分かる。あの映画は『GODZILLA』と呼ぶべきじゃなかったんだ。けれど、僕が監督に決まったという発表があった2012年の末、英国に帰省した時に仲間内でパーティをやっていたらMTVから(1998年版の音楽に使われた)パフ・ダディの曲が流れてきた。そうしたら友達が、僕を見てクスクス笑い出したんだ。これだけ世界中に注目される作品を監督することに全然ピンときていなかったけれど、その時に初めてプレッシャーを感じたよ」
幸い、製作サイドはかねて1954年の第1作「ゴジラ」を踏襲することを公言。ビキニ環礁の水爆実験などを盛り込んでオマージュをささげつつ、原発事故や環境破壊といった現代性、オリジナリティを取り入れることで世界観を構築していった。
「ゴジラが誕生から60年も愛され続けているのは、SF映画の形は取っていても常に意義のあるメッセージを発していたから。シリアスで芸術性の高い作品では重みのあるメッセージはたくさんあるけれど、限られた人にしか見られない。こういう大作で重要な課題や問題提起をすることは重要だと思う。ゴジラは、人類にとって非常に重要なテーマを含んでいるんだ」
加えて、米軍の指揮を執る司令長官(デビッド・ストラザーン)が、渡辺謙扮する芹沢博士との会話で第2次世界大戦での広島の原爆投下にふれるシーンが印象的だ。ここには相当なこだわりがあったと強調する。
「僕にとってはすごく重要なポイントだった。映画には米軍が協力しているし、脚本の段階で承認も得て、撮影現場にも視察に来ていた。演出には非常に慎重を期したし、俳優に対しても何か後悔の念が感じられるようなシーンにしたいと確認し合った。怪獣の戦いを見に来るだけの人もいるだろうけれど、非常にシリアスなことを描けたことは自分の誇りになっている」
とりわけ、日本を描くに当たっては渡辺の貢献が大きかったという。ゴジラと並ぶ“日本代表”で、役どころも第1作で平田昭彦が演じた芹沢大助を継承している。特にゴジラを呼ぶ際に英語発音の「ガッディーラ」ではなく、日本語で「ゴジラ」と伝えるのも渡辺のアイデアで、感謝を惜しまない。
「謙はすごくアドバイスをくれた。何か問題があったり、これはちょっとまずいんじゃないかという時には、日本で受け入れられないと全く意味がないので変更もした。脚本にはゴジラという文字が全く出てこないバージョンもあったけれど、やはりどのクリーチャーのことを話しているか明確にしなければならなかったんだ。謙にはそれでいいのかって逆に聞いたけれど、米国ではこれまでテレビ放送も多くてゴジラという音を聞き慣れている部分があったから、謙がゴジラと言った瞬間に拍手が起きたよ。英語的に言ったら『そらきた』ってなっただろうし、逆に新鮮だったのかもしれない」
懸念されていたゴジラのビジュアルに関しても申し分なく、しかもゴジラが現れるまでの伏線の張り方、観客の期待感をあおる演出は秀逸。ゴジラは英国ではテレビ放送が数本あったくらいで、渡辺がオタクと称するほどのめり込んではいないそうだが、この男、ゴジラ映画を心得ている。
「ビジュアルに関しても音響に関しても、いろんな視点を取り入れて常にコントラストを出そうと意識した。ゴジラの全体像を見せるまではゆっくりとステップを踏む。最初の2分で見せてしまったら、すぐに天井にぶつかってしまうからそれからの進展がない。徐々に盛り上げてクライマックスを迎えるのが理想。僕はこれを“映画的前戯”と呼んでいるんだ(笑)」
確固たる信念は、米国をはじめとした世界各国での大ヒットとして結実し、既に続編の話も出ている。まだディベロップ(開発)の段階だが、「ゴジラが現れる衝撃を描くのももちろん面白いが、ゴジラの存在が日常になっている世界も面白いかも」と構想は広がるばかりだ。だが、やはりゴジラの生地である日本で認められなければ心が落ち着くことはない。
「PK戦で、最後に自分が蹴って(入れば)決まるという心境だよ」
その審判は7月25日に下るが、エドワーズ監督の熱い思い、そして生み出された「GODZILLA」は日本のファンにもゴジラとして届くはずだ。