「生きるという事を真摯に描いた作品」かぐや姫の物語 なつさんの映画レビュー(感想・評価)
生きるという事を真摯に描いた作品
素晴らしい作品です。
学校の教科書で読んだけどいまいちパッとしない…という印象だった竹取物語を元に、どうしたら感動を呼ぶような話になるのか不思議でしたが、観たら十分に理解できました。大胆なようですが、解釈に全く違和感がありませんでした。
かぐや姫の罪は生きたいと願った事、罰は生まれてきた事です。この映画は、かぐや姫の人間としての一生を通して「生きる」という事をテーマに描いていると感じました。
山から都に下ってからのかぐや姫は、姫らしくふるまう事を強要され、自分の意志での行動が制限されます。そして、外見を品評され、宝物に例えられて取り合われるなど物として扱われ、人間としての尊厳を踏みにじられます。
最終的には、帝に求婚によっていよいよ誰かの物になる事を強制され、姫は人間の偽物として生きながらに死ぬぐらいならと月に帰る事を願います。
しかし、月が迎えにくるまでのわずかな間、姫は自分が生きるために生まれてきたのだと悟ります。ここでいう「生きる」とは、誰にも支配されず、自由に、人間として生きるという意味です。姫が愛した山の動物や植物と同じように。度々入る動植物のカットは、ただビジュアルが美しいだけのものではなく、「生きる」事の尊さを描き出しています。最後に捨丸へ自らの想いを伝え、抱き合い、喜びを感じるシーンは、人間として生きる事の象徴のようでした。「生きる」という、当たり前のようで当たり前でない事をこんなに丁寧に描き、教えてくれる作品に出会えた事にとても感謝しています。
またこの作品は、従来のアニメヒロインに対する批判であるというようにも受け取る事ができます。あまりにも超人的な母性だったり、従属的、性的な対象でしかないといった都合良く自我を持たないヒロインばかりが生み出され、それを良しとする世の中に対しヒロインも人間だ、生きているのだというメッセージを投げかけているように感じます。