「"本物の"宮崎ワールド」風立ちぬ chaiqiさんの映画レビュー(感想・評価)
"本物の"宮崎ワールド
実在の人物をモデルにしたそうですけど、やっぱりファンタジーじゃないですか(笑)
宮崎駿という一人の男の夢想(妄想?)の世界をひたすら見せられた気分。
ジブリ作品全部がそうじゃないかといわれればそれまでだが・・・
少なくとも従来の宮崎映画は、観る人たちのことも考慮した作りになっていたように思う。
しかし「風立ちぬ」という作品には、おそらくそんな配慮などまったくされていないといっていい。
誰かが「老人の睦言」と言っていたが、その寸評が一番しっくりきた。
この作品には、彼の好きな物、嫌いな物、欲望、理想──そして少しの思想が詰まっている。
あらゆる絵が素敵すぎて、美しすぎる(いったいどこの国だよ! とツッコミを入れたくなったこともしばしば)
それにつけて、老人らしい皮肉も冴えている。
色々な寓意が、あちこちに散りばめられている。
とはいえ、宮崎駿は本物の天才なので、ただのオナニー作品には仕上げない。
アニメーションとしてアウトプットすることの価値をおそらく誰よりも深く理解している彼は、「芸術の見せ方」を特段意識することもなく心得ている。
そう、この作品は実写映画では描けない。実写でこんな映画をやったら、それこそ本物の「オナニー」になってしまうだろう(それも、72歳の!)
それだけに、庵野監督の声優起用は、計算ずくで、自分だけの世界にわれわれが踏み込んでくることを邪魔しているのでは? とすら勘繰りたくなった。
でも多分宮崎は、庵野がしゃべるための台詞を書いていると思うので、他の声優が同じ脚本でやったら、それはそれで味気ないものになっていた気がする。
なんにせよ、「風立ちぬ」は、ある意味"本物の"宮崎ワールドを描いた作品である。
この作品が、宮崎駿という作家の、"最後の集大成"にならないことを願うばかりである。