「堀越二郎氏を誤解させる映画」風立ちぬ てつさんの映画レビュー(感想・評価)
堀越二郎氏を誤解させる映画
作中に描かれるゼロ戦設計者の堀越二郎氏は、零式艦上戦闘機を設計するにあたって血を吐くほどの努力をされたと聞いています。その動機は、かつて自らが軍国少年だったと自嘲気味に語る宮崎駿氏が本作で描いた「美しい飛行機を作りたい」というようなファンタジックなものであるはずはなく、日本海軍の高すぎる要求性能に応えるべくまさに「戦争に勝つために作り上げた戦闘機」に他なりません。
私は本作の批評本ともいえる小川榮太郎氏の「永遠の0と日本人」を読みました。
宮崎氏の映画は代表作の一つの「風の谷のナウシカ」のように、「現代文明を否定しながらも現代文明をバックボーンにしてしか語れない」という重大な欠点を持つと小川氏は指摘しており、「風立ちぬ」も同種の事実誤認に基づく部分が見られると厳しい指摘をしていましたが、正にその通りだと感じました。
戦争とは凄絶なものです。繰り返してはならないと思うのであればこそ、その悲惨さに迫らなくてどうするのだ、と感じています。
宮崎氏はこの映画で「あの戦争のおかしさを描きたかった」と言っていましたが、そんな正面突破はどこにもなく、「勝つための兵器づくり→美しい飛行機づくり」と趣旨をまるですり替えてファンタジーにしてしまったのは大いに失望しました。
宮崎氏が本当に日本国を憂う人なのであれば、このような作品の作り方は逆にできなかったでしょう。残念な映画の一つです。
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