「傑作とはこの作品のことを言う」きっと、うまくいく 12番目の猿さんの映画レビュー(感想・評価)
傑作とはこの作品のことを言う
まだ先があるのか!と驚愕するくらいに楽しませてくれる。良い意味で油断も隙もなかった。拷問かというくらい映画の緩急の振れ幅の短い演出は、3時間という時間を忘れて釘付けにさせ、観劇後には忘れていた疲労感が体を襲ってきたせいで、暫く動くのに難儀したほどだった。小難しい伏線や高尚なユーモアはないのだが、ここまで圧倒的な手数の乱打を喰らっては無事に済むはずもない。
物語のあらすじは、インドの経済発展を支えているエリート大学・ICEで、変人ランチョーが織り成す大学内での当時の狂騒と、十年後の現在で、行方不明になった彼を探すという二つの時間を交互に交えながら進んでいくというものだ。競争の激化するインド社会でずば抜けた知性と感性を持ったランチョーは問い続ける、学問とは?そして人生における成功とはなにか?インド映画といえば世界的にヒットした『ムトゥ~踊るマハラジャ』が思い浮かぶが、あれはあくまで日本やハリウッドにはない独特のノリと演出が面白いのであって、珍しいものだから評価されているという側面は否めなかったが、この『きっと、うまくいく』はシモネタ満載の学園コメディーと大人になった彼らを描きながら、インド社会のみならず、先進国が抱えている社会問題に言及し、人間のあるべき姿を描いていくという、インド映画といった枠組みに収まることのないエンターテーメントなのである。スピルバーグが三回観た上に、各国でリメイクが決定されていることからも、この映画の普遍性が伺えるだろう。
深刻なテーマを取り上げながら欝展開に陥ることなく、それどころか観客を楽しませ最後には幸せな気分にしてくれる、まさに映画のお手本のような作品で、主演のアーミル・カーンは本国で「ミスター・パーフェクト」と呼ばれるほどの役者らしいが(44歳という年齢で大学生を演じきっていたという時点で彼の凄さが分かる)、映画そのものにも「パーフェクト!」という賛辞を贈りたくなってしまうほどだ。今後「好きな映画は?」と問われた際には、「いろいろあるけれど、ベストを一つ挙げるとするなら『3 Idiots』だね」と答える人間が大勢出てきてもおかしくはない、人々の記憶に残る名作だと言っても過褒ではないだろう。