「不器用なイタさに共感」世界にひとつのプレイブック うそつきかもめさんの映画レビュー(感想・評価)
不器用なイタさに共感
実体験で、似たような境遇になったことがあり、男の側から見れば「そういう気持ちになるのも無理ないよな」と思いました。いつまでも愛想をつかされた妻のことを忘れられないのです。
ジェニファー・ローレンス演じるティファニーは、ちょっとぶっ飛びすぎていて現実味のないキャラクターですけど、地に足の付いた演技で、「こんな人いてもおかしくないのかな」と思えるさすがの存在感でした。
そう思わせるあたりが、オスカー獲得の評価につながったのかもしれませんね。
ただ彼に「惚れた」とかじゃなくて、同じ臭いを感じたから「お互いの存在が必要」という気持ちを持ち、彼女を狂気スレスレの行為に走らせたのでしょう。
タイトルにプレイブックとあるのは、「(舞台劇などの)台本、(アメフトの)戦略ノート」などの意味があるらしく、わざわざその言葉を使うくらいなのだからティファニーがどうやってパットを攻略(恋愛を成就)していくのかという、裏の意味を込めてあるのでしょう。
普通に撮ったら、ドタバタ・ラブコメディで当たり障りのない「笑える」映画になったはず。
奇行に走る男に片思いをして、どうやって彼の心を開かせ、元妻を忘れさせ、自分に振り向いてもらうかという、彼女の行動(作戦)がストーリーの軸になるところです。
ところが、この映画、男の心の傷にスポットを当て、妻を寝取った男を殴って、接近禁止令とか、職を失うとか、リアルすぎる設定で、「イタすぎて笑えないよ」という感想の方が勝ちました。そこらへんを軽く描かない当たりが並みの作品と一味違うテイストを醸し出すのです。
そこは、ブラッドリー・クーパーが男前すぎて共感を得られないところから来るのかもしれません。シリアスなトラウマを抱えている男のキャラが強く強調されすぎるのです。
デ・ニーロの役も、普通ならクレイジーなダメおやじで、ノミ行為で家族全員を巻き込んだりするなら、相応の役者さんにオファーするでしょう。ジョン・グッドマンとか、ダニー・デビートあたりが演じていたら、全く違うテイストの映画になっていたはず。
でも、彼がやったことで妙にセリフ一つ一つに説得力が生まれ、ラストのカタルシスにつながります。
昔の映画に『恋しくて』というロマンチック・コネディがありましたが、ちょっとテイストが似ています。
とても楽しめました。