「ストーリーも演技プランも掴み所も分かりやす~い。悪い映画ではないけど、これでオスカーいっちゃう?」世界にひとつのプレイブック グランマムさんの映画レビュー(感想・評価)
ストーリーも演技プランも掴み所も分かりやす~い。悪い映画ではないけど、これでオスカーいっちゃう?
こんにちは。
グランマムの試写室情報です。
『世界にひとつのプレイブック』★★★
オスカーに主要8部門もノミネートされている注目作。作品賞候補の中では、唯一のラブストーリーです。‥‥と思って期待して試写室に赴きましたが‥‥肝心のラブストーリーの部分が、先日、酷評してしまった^^;『バチェロレッテ』ほどではないですが、ムードもへったくれもない(笑)
性や人間の生理的な部分に関するアケスケな台詞‥‥。でも、隣席の外国人さんグループは、大いに受けていたので、やはり日本人と米国人では、笑いのツボが違うのでしょうか?
ところが、“ラブ”ではない場面になると、本作は途端に生き生きし、魅力を発揮し出します。さすがに、傑作『ザ・ファイター』のデヴィッド・O・ラッセル監督。スポーツ賭博やら、スポーツ観戦場面の楽しいこと!♪♪♪♪
ですので、本作はラブストーリーではなく、ファミリーコメディ、ちょっとクレージーな人々の再生物語と考えたほうがいかもしれません。
ストーリーはシンプルです。ブラッドリー・クーパー扮する前妻の不倫場面を目撃し、精神のバランスを崩した男パットは、実家で暮らしながらリハビリ中。前妻との復縁と、教職の復職を願っている。
近所に住む若き美女ティファニーと知り合うも、自由すぎる振る舞い&言動に振り回され、ついていけない。ティファニーも夫を事故で亡くし、暗い傷を抱えていた。
前妻と知り合いのティファニーに、パットは「手紙を渡してくれ」と頼む。
パットはティファニーをディナーに誘う。「夫の死を忘れるために、職場の男性全員と寝たわ」と率直に話すティファニーに、「全員と?」「女性とも寝た?どんな感じ?」と、イヤラシげな好奇心満々で聞き出しておきながら、「もう、この話はやめよう」
「あんたはずるいわ!私は心を開いたのに!」とキレまくり、道端で大声を出す2人。どう見ても、バッドチューニングな2人なのだ。
前妻への手紙を渡しに、ティファニー宅へ行ったパットは、交換条件として、ダンスコンテストへ、ティファニーの相手役として出ることになる。ティファニーは、夫の保険金で自宅を改装し、立派な練習フロアを造っていたのだ。2人は練習に励みながら、少しずつ心の距離が近づいてゆく。
ロバート・デ・ニーロ演ずるパットの父は、失業後、アメフトの胴元を務めている。地元のフィラデルフィア・イーグルスの勝敗に、一家、近所、親戚中の未来がかかっている。
ちょっとクレージーな周囲の人々に見守られながら(賭博の対象にされながら^^;)、ダンス大会決戦の日を迎え、2人と周囲の人々の興奮と緊張は最高潮に達するが‥‥。
旬の俳優としての輝きを見せる主演の2人は、もちろん好演していますが、オスカー受賞にはどうでしょう?的な演技に思えました。例えば、ブラッドリー・クーパーは、『ザ・ファイター』の兄弟役マーキー・マイク(こう呼ばせて!分かる人には分かる(笑))と、クリスチャン・ベールの迫力ある役作り、人物造形には敵わない。
ジェニファー・ローレンスも大きな存在感を示し、22歳の若さで、この難役をこなしたことは評価されるでしょう。しかし、較べるのもナンですが、『ブルー・バレンタイン』『テイク・ディス・ワルツ』におけるミシェル・ウィリアムスの、観客の胸を痛くさせるほどの真実味、説得力、抒情性溢れる演技には、遠く及びません。
一方、前述したように、デ・ニーロ扮する父親周辺の空気感演出は秀逸です!小さな田舎町で、地元意識の高い米国人が集まれば、イーグルスの話になる、つまり居酒屋トークが繰り広げられるのです。そのくだらなさ(笑)
まさか大名優デ・ニーロが、情けない田舎の無職親父で、ノミ屋になり下がっているとは^^;母親役のジャッキー・ウィーバー(『ピクニックatハンギングロック(!!あぁ、大好きな作品)』は、オーストラリア出身の名脇役。料理が上手な主婦のイメージで、本作に暖かな雰囲気を醸し出しています。
本作の見どころは、やはりデ・ニーロと言わざるを得ません。関心はイーグルスの勝敗と、家族、近所の動向という小さな小さな世界に住み、おそらく地元から一歩も出ないで一生を終えるであろう庶民の生活を見事に活写しています。
『ザ・ファイター』でもそうでしたが、ラッセル監督は、こうした庶民の日常、さまざまな問題を抱えながらも、時には熱狂する、といった場面をテンポ良く描く力量を持っています。
一方、ロマンスの描写に関しては、平板な印象を受けました。ラブロマンスに胸が痛くなる抒情性を期待するのは、女子特有でしょうか。原作は未読なので、イメージが湧きませんが、ラブストーリーを標榜するなら、何もこんなに開けっ広げにしなくとも‥‥、もう少しリリカルであっても良かったのではないかと感じました。
最近の米国映画には、心が傷ついた人々の再生と出発の物語が多いですね。本作が共感を読んだのは、メンタル医院に通う人々が多いお国柄もあるのでしょうか。日本人が共感するかどうかはどもかく、本作は“分かり易い”映画です。
オスカーレースで、どれくらい獲れるか、エゲレスのブックメーカー関係者や、ラスベガスでは必死の思いで授賞式を注目している人が多いでしょう(笑) 2月22日から新宿武蔵野館ほか、全国上映されます。