地獄でなぜ悪い : インタビュー
國村隼×二階堂ふみ “最恐”親子が明かす園子温組の熱量とテンション
日本のみならず、今や世界中の映画ファンから注目を浴びる鬼才・園子温監督。しかし、不遇の時代がなかったわけではない。近年の「愛のむきだし」「冷たい熱帯魚」「恋の罪」といった過激な性と暴力のイメージを、昨年の「ヒミズ」「希望の国」のシリアスな社会描写で一新した園監督。そして今年、「地獄でなぜ悪い」でこれまでになかった“娯楽大作”いう新たなジャンルへと踏み込んだ。これは若き園監督が現在の姿に至るまでの原点を振り返る物語であり、現代の映画業界への批判をはらんだ痛快コメディである。そんな園監督の思いをスクリーンに投影した主演の國村隼と二階堂ふみに、映画製作の舞台裏を聞いた。(取材・文・写真/山崎佐保子)
ヤクザの組長・武藤(國村)は、自分の身代わりとして獄中に飛び込んだ愛妻(友近)の悲願を果たすため、娘ミツコ(二階堂)を主演にした映画製作を決意。通りすがりの平凡な青年(星野源)と“映画の神様”を信じるうだつのあがらない映画青年(長谷川博己)を監督に仕立て上げ、対立する池上組の組長(堤真一)らを巻き込んだアクション活劇を撮り始める。
園組初参加となった國村は、「園さんらしいというのは変な言い方だけど、型にはまらない独自の視線を感じました。あとで聞いたら17年も前、映画監督として世に出る前に書いたものであると。それでなるほどなって。映画を撮りたくて、撮りたくて、でも撮れない。でも『こんな世界を撮りたい!』ってエネルギーみたいなものが詰まっている脚本だった。映画の中で映画そのものを遊んでしまうという発想、面白いと思いましたね」と語る。
「ヒミズ」に続き、園監督とタッグを組んだ二階堂は「園さんに『わりと大きい規模の作品なんだけどやらない?』って電話で聞かれ、脚本を読む前に返事をしちゃった。園さんだったら絶対に面白いものになるだろうって確信があったので。いざ脚本を読んでみたら、『何だろこれ?』って(笑)。今までの作品と違うテイストだったし、映画を愛する気持ちが出ている本だったので、参加できるのはうれしいなって夢中になりました」と振り返る。
本作は、任侠、青春、恋愛、アクション、コメディなど、さまざまなジャンルが入り交じった娯楽映画。國村は、「彼自身の言葉を借りれば『園子温のコメディを撮りたい!』ということだった。コメディは色々なセンスが必要になってくる。だからコメディというジャンルは一番難しい。コメディにも色々あるけど、いつも思っているのは芝居をやる僕らが面白い芝居をやっちゃうと客観的に見ているお客さんは笑えないということ。そこは園さんも同じ考えで安心した。演じている俳優たちはものすごく一生懸命、むしろシリアス。どの人物もそれぞれの導線の中ですごく真剣にやっている。キャラクター設定も含め、バランスよくできた本だと思う」と巧妙な構成に感心。コメディといえども園節は至るところで健在で、「根っこには変わらず同じものがあると思う。17年前に書いたこともあるけれど、園さんはまるで人の本を読むような感覚で読んだらしい。人の本を監督として撮るという、ある種の客観性をもって撮っていたんじゃないかな」と分析する。
客観的視点を保ちながらも、スタッフ・キャスト一同は童心に返るように本作の撮影を楽しんだ。これでもかと血にまみれながらスクリーンで大暴れする二階堂は、「映画が好きでこの仕事やっているので、今回だけが特別に楽しかったってわけじゃないけれど、“映画の中で映画を演じる”というのはすごく楽しかった。改めて、30秒の特報にこもった高い熱量やテンションが、本編で2時間続いていることがすごいなって思いました(笑)」。前作「ヒミズ」とは園監督の雰囲気もだいぶ異なったそうで、「『ヒミズ』の時は、園さんがしっかり大人として私たちを見守っていてくれたからできる芝居だった。今回は園さんが少年に戻って遊んでいる感じ。映画愛も変わらず感じたし、あとで長谷川博己さんの役は園さんをベースにしているって聞いて素敵だなって思いました」とほほ笑む。國村も、「あの脚本を書いた当時の園さんが、長谷川さん演じるキャラクターそのままであると考えれば間違いないです」と笑った。
初共演にして、アクの強烈な“最恐”親子を演じた2人。「ヒミズ」で日本人初のベネチア国際映画祭マルチェロ・マストロヤンニ賞(最優秀新人賞)受賞という快挙を成し遂げた二階堂は、「國村さんは大先輩ですから、ご一緒できるだけで身に感じるものがあった。私は殺陣が初めてだったので、國村さんを見ていてすごく勉強になりました。ただ、私も一応プロとして現場に行っている以上は、同じプライドをもってやりたいなって思うんです。この現場で感じたことを次の現場で生かしていきたい」と意欲をみなぎらせる。また、「役者だけだと何もできないんです。撮影部がいて、照明部がいて、録音部がいて、衣装さんがいて。みんながそれぞれ自分の力を100%出し切って成立する。映画の現場の面白いところって、やっぱりそこだと思うんです」と弱冠19歳とは思えない女優としての哲学をもつ。國村は「大先輩ってやめてよ。年寄りみたいじゃん」と冗談を言いながら、「年齢に似合わずしっかりしている。現場で何を話すってわけじゃなかったけど、すごいなって僕は思っていたよ」と称えた。
第一線で活躍し続けるベテランの國村と、目覚しい活躍を見せる若手実力派・二階堂。そんな2人にとって、園組という唯一無二の映画製作現場はどんな刺激的体験だったのか。
「僕は今回が初の園組。過去に彼が撮ってきた映画を見たけれど、1本1本が全然違う。彼にとってこの作品は過去の自分に出会うような映画。そういう映画を一緒にやれたことはうれしいし、できあがった映画を見た時に、テンポの良さやテンションの高さが心地良かった。とっても好きな映画ができました」(國村)
「まだまだわからないことだらけだけど、園組に行くと自分を見つめ直せる。よく周りの人から『怖かったでしょ?』って聞かれるけど、園さんは『ヒミズ』の時からずっと優しい。今回の打ち上げの時に、『今度おまえとやる時は今までとは違う厳しさでやってやる!』って言われて、ちょっと怖いなって思ったけど、また呼んでほしいです」(二階堂)