「靴屋になれない大統領。」リンカーン ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
靴屋になれない大統領。
本年度のアカデミー賞で、最多12部門にノミネートされながら
二部門しか受賞できなかった今作の、何が原因なんだろう?と
思いながら公開を待っていた。で、鑑賞したら理由が分かった。
リンカーンの功績を謳い上げると地味になるということだろうか。
何も史実に基づいて正確に描かずとも、よりドラマチックに描く
ことは幾らでもできたろうに、敢えてスピルバーグはしなかった。
これは好き好きになるので良いも悪いも鑑賞者の印象によるもの、
今作が面白かった派、つまらなかった派に分かれるのは仕方ない。
私もリンカーンそのものがよく描けていた点と、やはりダニエルの
ソックリさん^^;を上回る演技には魅了されたものの、ドラマと
しての躍動感やエンターテインメント性には欠けていると思った。
確かに彼が成し遂げた功績は(一方では)大きい。
今の合衆国大統領がオバマであることの意味がハッキリと分かる。
でも英雄じゃなし、南北戦争においては清廉潔白でもない。
正に普通の政治家であり、家じゃ奥さんに頭が上がらない温情派。
彼の強固な信念が大きな目的を成し遂げた。それが今日を作った。
偉大なリーダーとはどうあるべきか、を淡々と描いた作品だった。
それにしても面白かったのは、リンカーンを始め、ソックリさんが
多数登場しており、しかもそれを俳優が成り切って演じているのが
またハンパなく凄くて、先程の話の流れは地味でも、各々の個性は
とめどなく派手^^;、奥さん役のS・フィールドですら、生き写しか?と
思うほど似ている。(性格までもしっかりと)
この奥さん、こんな描かれ方で可哀想…と思われるかもしれないが
本当にこういう人だったらしい^^;リンカーン大統領、押されっぱなし。
家でも凄いドレスを毎回身に纏っていたが、お買いものが大好き♪
夫が暗殺されたらすぐ遺族年金を要求、噂と違いしっかり者だった?
資産家の娘だったというからさすがだわ、とも思うけれど、彼らが
口喧嘩を繰り返す今作でも、どう見てもリンカーンの方が歩が悪い。
役に成り切るのが定評のダニエルは、今回も怠りなく役作りに没頭、
奥様役のS・フィールドに対し、文通を申し出たそうだ(よくやるよね)
家でもリンカーン、役でもリンカーン、アクセントも巧かったもんねぇ。
靴職人になりたくて仕方なかったダニエルを映画界が放っておかず、
(なぜ神は彼を靴屋にさせないのだろう)
俳優に戻してみたらすぐにアカデミー賞をとっちゃうダニエルの才能。
なんならお次は壇上で語っていた女性著名人役をやっていただいて、
行き着く所まで役作り対決、米国メリルと競い続けていただきましょう。
日本では大人気のボス(爆)、トミー・リー・Jも鬘を被って大熱演。
彼のしかめっ面がいつ綻ぶんだろうと、そればかりを祈りながら…
彼らの票集めでの奮闘ぶり、採決でのやりとりは本当に面白かった。
「知るか!賛成」とか「クソ食らえ!賛成」とか枕詞がのるところなんか
面々の畜生ぶりに大笑い。死傷者のことを考えたら笑えないのだけど。
ラストがエ?と思うほど淡々と終わってしまうところも狙いなのか。
手袋のシーンは、最後まで粋で良かったなぁ。
(鑑賞後には「声をかくす人」を。隠された事件の真実が暴かれます。)