「迫力に押され、あっと言う間の2時間半だが、日本人には少しばかり難しいかも知れないね」リンカーン Ryuu topiann(リュウとぴあん)さんの映画レビュー(感想・評価)
迫力に押され、あっと言う間の2時間半だが、日本人には少しばかり難しいかも知れないね
アメリカの歴史の詳細や、政治情勢にも明るく無い私には、どうしてハリウッド映画界が、この1~2年に立て続けてリンカーン大統領を素材にした作品を多数撮る事にしたのか?
その背景には何が起因しているのか理解出来ていない。
まぁしかしそんな動機を知った処で、この作品の良し悪しの評価が変わる事も無いのかもしれないが、何故かそこがどうしても、私には引っかかるのだ。
黒人奴隷解放を行った彼は、最もアメリカ人に愛されている大統領の中の1人である。
しかし、元々大陸に永年棲んでいたネイティブアメリカンを多数大虐殺する政策をした事でも大変有名な大統領なのだ。
そんな彼の「人間は神に因って平等に創られた」と言う大いなる矛盾する、2面性を今のアメリカ社会は知りながらも、今日も英雄として祭り上げる、その今のアメリカ社会のマインドと言うか、世界観がどうしても気になるのだ。
黒人であるオバマ大統領が2期も続けて大統領に就任した事が、リンカーンブームの背景になっている理由とは、考え難いのだ。
この作品ではリンカーンが、今生きている黒人たち生涯だけでは無く、これから未来に生れて来る黒人をも、救う事になるのだと言うシーンがあったが、確かにリンカーン大統領が、この決議を成功させていなければオバマ大統領も存在していなかったのかもしれない。
そう考えると彼の政治的功績は大きいのだろう。
そして、本作をスピルバーグ監督は、大統領の生涯の伝記映画としては描かずに、彼の悲願である南北戦争の一日でも早い終結と、それに合わせて黒人奴隷を解放させる事を議会で、可決させる迄の日々を克明に追った心理ドラマとして描いた事は実に名案だったと思う。
そして、確かにリンカーンを演じたダニエル・デイ・ルイスは名優中の名優で巧い。
サリーフィールドも「ノーマレイ」に続いてオスカーを併せて2度も獲得しているので、文句の付けようの無いキャスティングだ。
だからこそ、スピルバーグが政治的な素材を主題にした作品を創ると、完全にオスカーをよこせと意識して撮った事が見え見え確実で、映画全体が嫌味に見えて、嫌いな作品になる。
それに引き換え、元々マイペースで、生真面目なロバート・レッドフォードが制作した「声を隠す人」には、スピルバーグの様な嫌味な処が微塵も感じられない。
そう言えばもう1点思い出したが、この「リンカーン」は、彼の政策が議会で勝利し、完全にハッピーエンドの物語で絶対に終わらせるべきだったと思うのだ。
その後の暗殺事件の事は誰もが周知の事であり、ましてや幼い三男息子の泣き顔のアップを長々と撮るなどは、完全に描く必要の無いシーンだ。どうしてもと言うなら、ナレーションか、テロップ表記で充分だ。
その前迄に映画が描き出して来た緊迫感溢れる、芳香な味わいの大人の映画を安っぽいお涙頂戴のバカな三文映画に貶めてしまう。やはりこれでは3度目の監督賞は絶対無理だ!