「ハッピーエンドてんこ盛り!」人生の特等席 tochiroさんの映画レビュー(感想・評価)
ハッピーエンドてんこ盛り!
基本的にクリント・イーストウッドの映画は外れがないので観に行くことにしているが、この作品は正直微妙ところ。やはりイーストウッド自身が監督したものとは趣が異なるようだ。
メジャー球団の有能なスカウトのガスは、幼い娘を残して妻に先立たれ、しばらく仕事に娘を同道するが、ある時変質者(幼児性愛者)に娘を狙われたことで、自分の仕事の環境は娘にふさわしくないと人に預けてしまう。娘はそれを父親に捨てられたと解釈し、父親に認められようと弁護士になる。父親はそんな娘の頑張りを見守りつつ、スカウトを辞められない自分に娘を引き取ることはできないとあえて疎遠にする。
そんな父と娘の理解と和解を描く作品で、テーマは悪くないしイーストウッドは勿論、エイミー・アダムスを初め手堅く固められた共演陣の演技も素晴らしい。しかし正直に言わせてもらえば作品全体としてはあまり高い評価はできない。その原因はやはり脚本である。
色々な衝突を繰り返しながら娘と父がようやくお互いの思いを理解し、和解していくのを描く場面でも、本来大きな山場であるのにそこに至るストーリーの盛り上げ方が弱く、父親が「お前を一緒に連れていくことはできなかった。俺の隣は安物の3等席だ」と自嘲気味に言うのに娘が「お父さんの隣は私にとって特等席だった」と答えるシーンが大して印象に残らない。
そしてラストはもうハッピーエンドのてんこ盛り。まず父親の意見を無視され、球団がボーを指名したことでジョニーに去られたミッキーの眼前に、全く無名の剛球投手が現れ臨時入団テストでボーをコテンパンにする(その投手は母親に勉強に専念するよう言われているためにチームにも入らず、勉強の合間の独学(自主練)でプロでも通用する投球術を身に着けたという設定!)。次にスランプに陥っていた打者がガスの意見で家族を呼び寄せたら見事に復活する。そしてミッキーの勤める法律事務所でもライバルが失敗し、復帰後の昇進を約束される。更に怒りに任せて暴言を吐いて去ったジョニーも恥ずかしげもなく戻ってくる。
これはいくら何でもやり過ぎと言うもので、その安易さに画面を見続ける意欲も無くしてしまう。特にジョニーの別れの言葉は怒りに我を忘れたとはいえあまりにひどいもの(怒りにまかせて発する言葉はその人の本音であることが多い)で、ミッキーがなぜ易々と許すのか男の自分が見ても全然納得できない。
イーストウッドもすっかり年老いて、もう新作は観られないかもしれない。しかしこれが最終作にはなって欲しくない。