劇場公開日 2012年11月23日

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「本当の「人生の特等席」とは」人生の特等席 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0本当の「人生の特等席」とは

2021年8月22日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

人生の特等席
それは娘が少女のころ父と行った野球場の思い出
本作は娘と父の物語です
老人の物語でも、野球の物語でもありません
それらは全てフリルです

女の子は、男の子とは違う特別な感情を父親に持つようです

そんなことは娘を持って、彼女が大きくなるまで分かりませんでした
男の子とそう変わらないものだと思っていました

小さくても女なのです
父親の愛を試そうとしたり独占しようとします

小さな頃は母親と張り合って、父を独占しようなんてことがあったりします
そのうち母親と共同戦線を張って父親をコントロールしようとします
思春期になって、ようやく父親から離れて異性に目を向けるようになるのです

でもそんなことは後から考えたらそうだったんだろうと思うだけで、子育て中は訳が分からないことだらけです
なので主人公のガスみたいに、距離感が図りかねて邪険に扱うといきなり不機嫌になったり、いつまでも根に持たれたりします

まして男親だけで女の子を育てたらと思うと、それが恐るべき濃密さになってしまうだろうとは、想像できます

ガスは82歳、なのでイーストウッドと同じ1930年生まれの設定です
娘のミッキーは33歳

妻はお墓に刻まれた日付で1984年に39歳で亡くなっていると分かります
ミッキーがまだ6歳の時です
なので彼女は1978年生まれです

妻が死んだ時ガスは54歳ですから、15歳違いの年の差婚でした
ミッキーの今の年齢は、彼の妻が彼女を生んだ年と同じです
娘を見ると、死んだ妻を思い出さずにはおられないのです

You are my sunshine, my only sunshine
You make me happy when skies are gray
You'll never know, dear, how much I love you
Please don't take my sunshine away

この歌には、前段があります
この部分はサビです

本当の歌い出しはこうです

The other night dear, as I lay sleeping
I dreamed I held you in my arms
When I awoke, dear, I was mistaken
So I bowed my head and I cried

ある夜 寝ていた時に
君を抱きしめている夢を見た
目が覚めると 君はいない
がっかりして 泣いたのさ

これが、この歌が劇中何度も歌われる本当の意味です
ガスは妻を、ミッキーは父を思い歌っているのです

この家族の父と娘の物語です
6歳の女の子、母親が死んだことは理解できたかも知れません
父と二人だけで、旅の生活、父が熱を持って教えてくれる野球の話、野球を覚えて今のプレーについて的確なことを言うと父から誉めてもらえる
彼女に取って父親を独占でき、24時間一緒にいれた生活は、母の死を忘れ去る程のものだったのです
なのに突然、親戚の家に預けられ、13歳になってダンス会の綺麗なドレス姿を見せれば、父の愛を取り戻せると思っていたのに、逆に寄宿学校に入れられてしまう
彼女には理解できない、愛の拒絶としか思えなかったのです

それでも愛を取り戻そうとして懸命に勉強に励み、弁護士になり、それでも駄目なら、弁護士事務所の共同経営者になろうとする
野球の知識も父と会話できるように常に勉強を続けていたのです
全て父の愛を取り戻す為なのでした

独身のころ、少女の時に母を亡くした女性とつき合ったことがあります
その女性の父はすぐに再婚したそうです
彼女の喪失感は母よりも、父の愛の喪失感であると感じさせました
そのことを思いだしました

本作は、主人公が野球のスカウトであるので、大リーグの裏側を紹介しつつ、父の愛する野球を通じて、父親の愛を再確認する娘の物語です
それがテーマです

妻として子供達の母として伴侶となった女性でも距離や関係で四苦八苦しているのに、娘までとなるともう父親はお手上げです

原題のカーブが苦手という意味は、劇中の新人選手のことでもありますが、実は男親への娘の感情のことであり、娘に上手く愛を伝えられない男親のことでもあります

ガス程でなくても、出張で飛びまわり、普段の時でも帰ってくるのは深夜
土日以外は、起きている娘を見るのはたまにしかなかった自分には身につまされる映画でした
その土日でも疲れて寝ているだけ
そんな父では娘の愛に応えてあげれなかったのは確かです

本作はラストシーンで全てが大団円を迎えます
娘は父の愛を確信することができ、父以外の異性の愛を信じることも出来るようになります

父もまたその光景をみたなら、自分の世代は終わったとリタイアすべき時だと納得できたのです
だからバスで帰ることにしたのです

素晴らしい結末でした
このような結末を自分の人生でも迎えたいものです
それが本当の「人生の特等席」なのだと思います
名作です

あき240
NOBUさんのコメント
2022年3月26日

遅ればせながら・・。
 素敵なレビューですね。
 ”本作は、主人公が野球のスカウトであるので、大リーグの裏側を紹介しつつ、父の愛する野球を通じて、父親の愛を再確認する娘の物語です。

 原題のカーブが苦手という意味は、劇中の新人選手のことでもありますが、実は男親への娘の感情のことであり、娘に上手く愛を伝えられない男親のことでもあります”
 今作は、かなり前に観た映画ですが、映像が鮮やかに蘇ってきました。
 有難うございます。多謝です。
 この映画サイトには、優れた文章表現で時を越えて映画を思い出させてくれるレビュアーさんが、数名居られ、嬉しき限りです。
 では、又。

NOBU
ぷにゃぷにゃさんのコメント
2021年8月23日

こんなに深い考察ができるなんて、すごいです。
それだけの映画だということが、わかりませんでした。
とても参考になりました。
もう一度この映画を見たいと思いました。

ぷにゃぷにゃ
あき240さんのコメント
2021年8月23日

きりんさん
コメントありがとうございます
ガスの妻の墓石には、願わくば延長戦が与えられん事をと刻まれていましたね

自分の娘は、実は長距離トラックドライバーと結婚しました
いつも父親がいないのが普通だったからかも知れません

あき240
きりんさんのコメント
2021年8月23日

あっ、そうそう😃💡
我が娘については「バーレスク」の拙レビューを覗いて下さい。
当方長距離トラックのドライバーでして、娘の顔を見るのは年に数回でした。

きりん
きりんさんのコメント
2021年8月23日

素晴らしいレビュー。
力付けられました。
延長戦、コールド負け、ノーゲームにサヨナラ・・
悲喜こもごもだけれど、人生というゲームを娘とじっくり味わいたいと思わされました。
ありがとうございました。

きりん

きりん