ローマでアモーレ : インタビュー
ウッディ・アレン、イタリアへの愛が詰まった最新作を語る
スカーレット・ヨハンソンを主役にし、ロンドンを舞台にした「マッチポイント」(2005)において、“復活”と言われたウッディ・アレンは、引き続きバルセロナを舞台にした「それでも恋するバルセロナ」(08)に、パリを舞台にした「ミッドナイト・イン・パリ」(11)と、ヨーロッパで次々に作品を作り、しかも、「ミッドナイト・イン・パリ」などはキャリア最高の興行成績を記録するなどの大成功を収めている。そして、今回彼のハートを射止めたのは、イタリアのローマだった。どの作品もそれぞれの都市に対するアレン監督からの“ラブレター”という内容なのだが、最新作のコメディ「ローマでアモーレ」でも、彼はローマという街の美しさ、そして人々の人生、恋愛を、彼ならではの鋭さとユーモアで切り取っている。「大好きな都市」というローマに、アレン監督が何を見たのか? ニューヨークのマンハッタンにあるアレンのオフィスで話を聞いた。(取材・文/中村明美、写真:Jason Frank Rothenberg)
アレンはこれまでニューヨークやパリを舞台に映画を撮ってきたが、今回撮影が行われたローマについてこう語る。「パリは非常にロマンチックで、ニューヨークは、とても神経質で、野心的な都市だと思う。ロンドンは、非常にシニカルで、そして、ローマというのは、とても遊び心にあふれていて、クレイジーな場所で、こんな都市って世界のどこにも存在しないと思うんだ。それに、すごく街が複雑で、どうやって歩けばいいのか分からないような場所だったりするしね」。
笑えるのは、今作は、大通りで交通整理をする警察官のこんなナレーションに始まること。「この街においてはすべてが物語になる」。アレン監督は続けてこう語る。「ローマが他の都市ととても違うのは、例えば、パリやニューヨークは、ひとりになりたかったら、家から出て街を散歩すればいい。でも、ローマっていうのは、家から出るのは、人に出会うためなんだよね。ローマは外に繰り出し、外での生活を中心とした文化なんだ。誰もがカフェにいるし、公園でたむろしている。とても社交的な都市だと思う。しかも、非常にカラフルな個性を持った人たちがたくさんいるしね」。ジェシー・アイゼンバーグ、エレン・ペイジ、ペネロペ・クルス、アレック・ボールドウィンらが演じるこの恋愛群像劇は、アレン監督らしく複雑で込み入ってはいるのだが、情熱的で、開けていて、非常に美しくポジティブに展開していく。「映画にとって空気感はとても大事だからね。ローマの非常に強烈な個性というのはこの作品に反映されていると思うよ」。
また、今作には、「タロットカード殺人事件」(06)以来アレン自身も出演しているのだ。「シナリオを書き終えた後に、うん、この人物なら簡単に演じられると思ったんだ。ローマで結婚する娘を持った父親ならできそうだ、ってね。僕は演技をするのは好きなんだけど、年を取ると自分が演じられる役を見付けるのがすごく難しいんだよね」。演じるのはオペラの監督で、アメリカで批評が悪かったため引退に追い込まれるという役柄だ。「ローマを舞台にした映画を作ることは分かっていたからね。例えばイタリア人はオペラが大好きだから、オペラの物語を書けば、イタリアを舞台した映画の中で自然に展開すると思ったんだ。それ以外には、例えばイタリアはパパラッチが非常に盛んな国でも有名だ。だから、ロベルト・ベニーニの家にパパラッチがやって来るという物語も書きたいと思ったんだ」。今作には、イタリアを代表する大スター、ベニーニが出演し、彼が演じる平凡な市民が突然パパラッチの的となり、自分の日常が“セレブ化”してしまうという風刺の効いた役を演じている。つまり、今作は、ベニーニとアレンというコメディ界のスーパースターが、さりげなく歴史的なコラボレーションが実現させているのも見どころとなっているのだ。「イタリア映画は自分のDNAの一部」と語ってくれたアレン監督のイタリアへの愛が、隅々からあふれてくる作品が完成した。