「そもそも人間なんざぁ他人の血肉の破裂を望む生き物」脳男 全竜さんの映画レビュー(感想・評価)
そもそも人間なんざぁ他人の血肉の破裂を望む生き物
怪物的な頭脳と身体能力を武器にいとも簡単に殺戮を繰り返す男の冷静沈着な血塗れぶりは、若き日のレクター博士を追う感じかなと気楽な了見で出向いたが、想像を絶する地獄絵巻が爆発していて面白かった。
一切の感情が麻痺し、殺人でしか人生価値を見いだせない青年と、彼に人間らしい感情を呼び覚まそうと叫ぶ女医との関係性は、浦沢直樹の『MONSTER』におけるヨハンとDr.テンマの距離感に近い。
死体が飛び交う凄惨な場やからこそ親子のような絆が産まれ、裏切られていく綱渡りの恐怖がスクリーンより突き刺さってくる。
『MONSTER』とは違う唯一の救いは、松雪泰子演ずる女医が、生田斗真に「死ね」ではなく、「生きろ」と呼び掛け続け、彼も逃げずに向き合っている事。
しかし、彼を最大の理解者・アンナのように寄り添うべき二階堂ふみは、生田斗真を遥かに凌ぐ殺人快楽主義者なのが、今作最大の悲劇であり、魅力へと着火する。
これ以上説明するとネタバレになり、通りすがりの読者にまたお叱りを受けるため、いつもの如く立川談志師匠の御言葉を引用させて戴く。
「そもそも人間なんざぁ、グロテスクな犯罪を望んでいる。ニュースで異常な事件を見て、驚く事で己の狂暴性を自覚し、理性を保つ生き物なんだ。だからガキが母親の首をノコギリで切って警察に持ってきたりするんだよ」
しかし、人間はなぜ血に興味を持つのか根本的な理由は何一つわからない。
家元曰わく、
「人間は思考をストップする生き物だから」
理由も何もただ一つ
“面倒くさいから”
今作の世界観も現実の浮き世も、つまりそういう事なのである。
では最後に短歌を一首
『火を舐める 兎の舌は やわらかく 駕籠に波打つ 贖罪の棘』
by全竜