一粒の麦
劇場公開日:1958年9月14日
解説
地方の中学を卒業して東京に集団就職する少年少女たちと、彼らを見守る教師の姿を描いたもの。新人千葉茂樹に新藤兼人が参加した共同脚本を、「地上」の吉村公三郎が監督、「悲しみは女だけに」の中川芳久が撮影した。「嵐の講道館」の菅原謙二・若尾文子が主演する。
1958年製作/109分/日本
原題または英題:A Grain of Wheat
配給:大映
劇場公開日:1958年9月14日
ストーリー
福島駅を臨時編成の集団就職列車が出発した。この中には平田中学の井上先生に引率された生徒達が乗っていた。彼等は上野駅に着き、職安の係員によって各雇主に引渡された。渡辺梅夫はそば屋へ、新井香代は大沼病院、西山強は須山自動車修理工場、実・次男・権三の三人は鉄工場へ、四郎と誠はガラス工場、夕子・明子・かつは浜松の織物工場へ、それぞれ就職していった。郷里に帰った井上先生は、相沢校長から来年も就職の世話を頼まれた。勉強する暇もなく、これが真の教育者であろうかと、疑問を持つ彼の気持は重かった。そんな彼を励ます同僚のイチ子先生と結婚することになった。日曜日--強や香代達はガラス工場に四郎と誠をむかえにいった。工場は突貫作業で二人は休めなかった。沼田先生の結婚式の晩、東京の職安からガラス工場で働く二少年が逃亡したという電報が来た。井上とイチ子は直ぐ上京した。警察に保護されていた四郎と誠に会って事情を聞いた。二人は約束と違う労働条件のひどさを訴えた。同席した工場主は、中小企業の苦しさを理由に、反省の色さえみせなかった。井上先生は浜松の工場まで職を探しに行った。そこでは工場が不況で職どころではなかった。このことを知った同郷の代議士塚本の世話で二人は就職できた。このことは政治色の強い美談として郷里に報道された。井上先生のところに来る便りは、明るいものばかりではなかった。織物工場がつぶれて、明子は浜松の喫茶店へ、夕子は温泉マークの女中に。強は三輪車の運転免許を取った。だが工場の事故のため、失業してしまった。鉄工場に働く実は体をこわし、家にもどらされた。井上先生の心中は暗くなるばかり。イチ子先生に学校だけが教育の場でないといわれ、ついに手をあげてしまう。強は実の代りに鉄工場に就職出来た。その面接の日に、母が死んだ知せがとどいた。しかし、職を失くしたくないために、家に帰ろうとしなかった。井上先生は強の気持を知って校長に来年の就職係を申出た。少年たちは一生懸命に働いた。--そして、今年も福島駅から就職列車が発車する。雑踏の中に井上先生の懸命な姿もみえた。