恋狼火
劇場公開日:1949年8月2日
解説
「小判鮫・前篇」「小判鮫・後篇」につぐ新演伎座プロダクション第二回作品である。製作は田口功夫が担当し「命ある限り」以来の楠田清が、成澤昌茂と協同で脚本を書き、洲田競(楠田清の改名)が監督する。キャメラは「命ある限り」の仲沢博治が担当する。主演は「小判鮫・前篇」「小判鮫・後篇」につぐ山田五十鈴「戦争と平和」や「青い山脈(1949)」の伊豆肇で、それに「母紅梅」の岡譲二「わが恋は燃えぬ」の小堀誠「地獄の貴婦人」の河野秋武、その他キングレコードの三門博らが出演する。
1949年製作/91分/日本
配給:新演伎座
劇場公開日:1949年8月2日
ストーリー
兼六公園の初咲きの梅を散らして、折からかかる浪曲師東千吉の小屋へ島田の根もがっくりくずして、かけ込んだ女が千吉の前に百円の金を投げ出して顔をあげた「このお金を送って……あて先は東京神田、村越欣彌」「どうしなすった」と抱きあげた女の手が、真赤な血のりに染まっていた。--三年前の旅興業で、月の卯辰橋に涼んだよい、白糸は欣彌とめぐりあった。男ぎらい、芸ごと以外はよそごとと、清い体をそのままに、滝の白糸と名をうった水芸の太夫でも、一度ともした火は消えようとはしなかった。時の移ろいに、水芸の小屋にも秋風がたちそめて一座をかかえる白糸は経済的に苦しかった。その苦しさの中で、白糸は欣彌の出世を夢み血の出るような学資を送りつづけた。たまたまめぐり合った酒の席で、出世した欣彌の恩師黒川に、身分の違いをきびしくたしなめられても女心の一途な思いはたえなかった。しがない旅の芸人でも、女心に変りはないと、酒をあおる白糸に、好意は身にしみて有難い、酒は飲むな体を大事に、といいのこして欣彌は勉学の途を心にむちうちつつ去っていった。--二人に苦しい年が明け暮れて、欣彌が検事補として晴れてひとり立ちする日がきた。金が欲しい。欣彌を愛するが故に、金を求めた白糸は、あやまって興業師桐田用作を殺めた。そして殺人の罪をとわれた法廷で、欣彌と相まみえようとは……。貴方のために金が欲しかったとは、白糸にはいえなかった。罪をきたまま白糸は欣彌の名を命かけても護りぬこうと心にきめた。恋に殉じる女心一途のはげしい愛情の前に、欣彌は法服をなげうった。地位も、肩書きもすべてをかなぐりすてて、検事となる前に、まず人の愛情をうけいれることの出来る人間でありたい、と叫ぶ欣彌の目に涙があった。二人の人間をむすびつけて貫く恋ののろしの前にすべてが淡く消え果てて、あとには互の真実の恋が燃えつづけるのであった。