斬られの仙太
劇場公開日:1949年4月5日
解説
製作部門を確立した東宝における森田信義プロダクションの第一回作。製作は「地獄の貴婦人」「春の目ざめ」の田中友幸。昭和二十一年第一回東宝争議前に、企画されていたものを、スタッフも新たに着手する。原作は「おスミの持参金」などを書いた劇作家の三好十郎で、滝沢英輔が脚色し、また「おスミの持参金」以来久々の演出。カメラは「白頭巾現わる」の安本淳。「颱風圏の女」「社長と女店員」の伊福部昭が音楽を担当している。主役は藤田進に「生きている画像」の花井蘭子。それに俳優座の青山杉作、新東宝から清川荘司、永田清、石黒達也が助演している。
1949年製作/95分/日本
配給:東宝
劇場公開日:1949年4月5日
ストーリー
徳川幕府三百年の末--農民は天保以来百年この方さしも続いた干ばつにとたんの苦しみにあえいでいた。百姓仙太郎もその一人であった。滞納した年貢米の故に、家もそして両親も失い、兄弟は四散し、傷痍の体を街道筋に投出していたのであった。利根の郷土甚伍左はつとに蘭学者として名声をはせ、今日も水戸の藩士加多源次郎と危急存亡の世を嘆き合っている所を仙太郎にぶつかって取りあえず甚伍左の家に運び、介抱の手を加えた。そして旬日傷いえた仙太に一両の金子を与え幸多かれと旅立たせるのであった。涙にうるむ仙太は更生を誓い、心も軽やかに歩を運ぶうち、追い剥ぎにあう。仙太の温かい心に生き返った魂はこうして奈落の底へ。三年の月日は流れて、やくざに身を落とした仙太は外ぼうこそ異なれ、百姓の幸福を祈る心に明暮を送っていた。そして今日は身を崩して蓄えた金子をたずさえて、ありし日の恩人の家に来た。だがそこには天狗党と行を共にして江戸に旅立った甚伍左の消息を娘の妙の口から聞くばかりであった。娘は父の志をつぎ、村の子供を集めて扶養していた。甚伍左の後を追った仙太は一たんはお妙の許にもどって百姓になるが、自ら腕のたつのを信じて天狗党に入党し、一日も早く明るい世にして百姓のすみ良い世の中をつくめためししと働く。殊に水木徹之助に認められ、佐分利縄手の要所をあずれられ、同じく百姓から入党した同僚のあこがれの的となる。しかし天狗党に天運は利あらず、着々幕府軍に押さえられてゆく。しかも武士の卑怯な態度をありありと見せつけられるや義憤する。更に誤って自らの兄をあやめた仙太は彼は、加多源次郎が最後に暴動のそしりを免れるために、士分以下のものを銃殺したことを告白するに及んで怒髪天をつくが、その時最後の弾は加多にそして仙太にとぶ。水木の卑劣な奸策なのだ。仙太は満身の力を握って遂に水木を倒す。晴れた信濃の連峰の見える三本松の街道筋に仙太を中心にした数十名の百姓町入出の隊士の姿が見えた。子供たちに取り囲まれておうような妙の晴れ晴れした顔。許し合った二人は晴れて土の上で結ばれるのであった。