殿様ホテル

劇場公開日:

解説

熊谷久虎、クラタ・フミンド、星野和平によって結成された映画芸術研究所の第一回作品で、再開された東宝撮影所において製作される。製作は井上正之、脚本演出は戦前「小市民」「試験地獄」「悦ちゃん」シリーズ「北へ帰る」等の佳作を発表、また「蒼氓」の脚色をしたクラタフミンドが戦後「女だけの夜」につぐ第二回作品である。撮影は新人会田吉男が担当、主演は「死美人事件」「男が血を見た時(1949)」の河津清三郎「銀座新地図」の井川邦子でそれに「わが愛は山の彼方に」「女優(1947)」の河野秋武「陽気な街」の飯田蝶子「社長と女店員」「新妻会議」の徳大寺伸「幸福の限界」の原節子「新妻会議」の吉川満子らが出演する。

1949年製作/93分/日本
配給:藝研プロ
劇場公開日:1949年3月1日

ストーリー

働く人々の住む町から坂を上るとそこのもの静かな一画に「家庭旅館」の看板が出ているのが花小路邸である。もと華族の花小路は、かつての封建的なカラから脱け出して多くの人達に役立てたい気持ちから、邸を開放して旅館を開業したわけだ。昔の執事早川は番頭となり、板前も、女中たちもみなんそろった。夫人朝子はもちろん大反対で、たまりかねて「もう帰って来ませんよ!」と別荘へ行ってしまう。開業の日、第一番にやって来たのが千代という娘でぜひ使ってくれという。花小路は喜んで女中の仲間に入れた。さて客はポツポツとやって来た。花小路は大喜びで陣頭に立ち、お客の靴まで磨くという徹底ぶり。女中たちもよく働いた。中でも働き者の千代は兄の復員だけを頼りにしており、花小路はいつしかいとしく思うのだ。そこである日千代に「ぼくでも女中と結婚しておかしくないかしら」と思いを打ち明けてみる。千代はほほを赤らめて「まあ……」とおどろくのだ。ところで旅館は仲々の繁昌である。だがどうも花小路の思ったように、働く人へのサービスにはならず、連れ込みやおめかけなどの宿泊が多いようである。そんな時、女客の一人がスリで挙げられ、花小路の心は何か晴れやらぬ。ある日千代は街でひょっこり復員した兄唯司とめぐり会い驚喜して旅館につれ帰った。花小路も喜んでこれを迎えたが唯司は明日北海道へ行くという。唯司は復員して色々就職も運動したが結局は甘い考えを捨てて裸になって生き抜こうと決心し炭鉱にいくのだと言う。花小路はすっかり感心してしまう。その夜泊まり客の猫越から宝石類を買ってくれといわれた花小路は別の泊まり客大場に世話をしてやり140万円で売れ、大場は小切手を書き花小路は現金に替えるまで品物を預かることになる。翌日番頭の早川が小切手を銀行へ持って行くとそれは偽造小切手ですぐ警察に連絡され、早川の話から宝石を売った猫越も大阪の宝石拐帯事件と関係があると見られ早速警官隊の乗り込みとなる。一方旅館では大場は花小路を脅迫し預かった宝石を取り返し大乱闘となり、助けにきた唯司が撃たれてしまう。そこへ警官隊が乗り込んで大場、猫越は逮捕される。 --撃たれた唯司はついに死んでしまい、花小路は現実の世相を見せつけられて自分の甘い考えを捨て、唯司のいうように北海道へでも行き裸になって出直そうと決心し、残った財産は番頭や女中やそして去った妻に残し、ただ一人家を出る。千代だけがそのあとを追って二人は肩をならべて坂の上から、働く人々の住む町の方へ降りて行くのだった。

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