藤十郎の恋
劇場公開日:1955年6月15日
解説
菊池寛の原作から「楊貴妃」の依田義賢が脚本を書き「花ざかり男一代」の森一生が監督する。撮影は「楊貴妃」の杉山公平、音楽は「おえんさん」の斎藤一郎の担当。「つばくろ笠」の長谷川一夫、「楊貴妃」の京マチ子、「あした来る人」の小沢栄、「八州遊侠伝 源太あばれ笠」の柳永二郎、「伊太郎獅子」の三田登喜子、猿之助劇団の女形市川松蔦などが出演する。
1955年製作/86分/日本
劇場公開日:1955年6月15日
ストーリー
元禄十一年春、京都四条河原の都万太夫座の一代の名優坂田藤十郎と、布袋屋梅之丞座に江戸より初上りの中村七三郎との競演が人気を煽っていた。藤十郎は七三郎の初日の舞台をひそかに見て、さすが江戸髓一の七三郎の芸と気魄に、油断ならぬ相手と痛感せずには居られなかった。四条の料亭「宗清」の女房お梶は、評判の高い貞淑な美人であったが、かつて共に連れ舞を踊った幼馴染の藤十郎に人知れぬ思慕の情を抱き続けていた。一方、藤十郎の不安は現実化し、その新作狂言も七三郎の新奇な趣向に圧倒され、意外な不入りとなった。彼は早速大阪から狂言作家近松門左衛門を招いて、新しい芝居の脚本を依頼した。かくて近松の書いた「大経師昔暦」は、大経師女房おさんと手代茂兵衛が密通の挙句処刑された物語である。藤十郎は初日を前にして、人妻に恋を囁く難解な演技を、如何に我がものとするかに心を砕いていた。初日の前夜、藤十郎は彼の部屋に入って来たお梶を見て、突然熱烈な恋慕の情を打明けた。一時は身を退けおののいたお梶も、やがて藤十郎にすべてを与えようとした。その様子をじっと見ていた藤十郎は、そのままお梶を置いて去った。初日の幕が開く。藤十郎の演技は真に迫り観客の熱狂を浴びた。藤十郎の芸のための偽りの告白を悟ったお梶は、楽屋で自害して果てた。その死顔を見た藤十郎は、やがてすべての感情を胸底に秘め、再び舞台へ出て行くのである。