触角
劇場公開日:1970年6月3日
解説
「強虫女と弱虫男」の新藤兼人が脚本・監督を担当し、コンビの黒田清巳が撮影を担当した。母と息子、息子と恋人の心理の葛藤を中心に性本能を追求したもの。
1970年製作/104分/日本
配給:東宝
劇場公開日:1970年6月3日
ストーリー
石川民子は、息子の利夫と二人暮し、音楽家カワノ・ナガル氏の写譜をして生計をたてていた。冬、母子が高原の山荘に来た時、民子は初めて息子のガールフレンド八重を紹介された。民子が仕事で上京した日、八重は利夫をスキーに誘った。だが、利夫は腹痛を訴え、医者を呼ぼうとする八重をとどめ、母の帰宅を待った。やがて、戻った民子が息子の下腹部に手をさしこみ、ゆっくりさすりはじめた。すると、利夫の顔から、みるみる苦痛と緊張がとけていった。夏が来て、利夫は家に近い海辺で八重とめぐりあった。そして八重が訪れた日、彼女の胸を見て、若き頃の母、その乳房を吸っていた自分を思い浮かべるのだった。だが、民子は二人の関係が密接になるにつれて神経をとがらせ、一方、八重も民子に敵意を感ずるようになっていった。そして、砂浜へ出た八重は、「わたしのオッパイを飲む、ママさんのを飲んだように」と胸をひろげるのだった。ある日の早朝、仕事から帰った民子が、バスルームで貧血を起した。ちょうど夢からさめた利夫は、全裸の母を介抱した。この様子を外から眺めていた八重は、ショックを受けるのだった。ある日民子の亡夫の友人大国が尋ねて来た。大国は民子の心情を見透し、発掘した石棒を置いていった。その大国が、サロン・ナデシコに利夫を誘った。そこには、民子にそっくりな娼婦ユキがいた。だが、彼女の顔半分には原爆の爪痕が生生しく残っていた。ユキは、基地の白人に抱かれる時にはいつも、原爆のむごさを語るのだった。大国は酔っぱらったユキを抱こうとした。だが、利夫は母が犯されるような錯覚をおぼえ大国の行為をさまたげた。利夫がユキの挑発に乗って、愛の交歓をしたのは、その直後だった。やがて、八重が「あの女と寝たのなら、あんたはママと寝たのよ」と利夫に迫った。それから間もなく、民子は二人が結ばれたのを見てがく然とした。やがて、民子は利夫を連れて夫の墓詣りをした。そして、日本海側の荒海を見下す断崖の墓前で「ママが死んだら、パパのお墓の横に入るの」と言い残し、姿を消してしまった。民子はもういない。利夫は、雪がしんしんと降り積る山荘で、ママを回想しつづけた。