ご存知、小泉八雲ことラフカディオ・ハーンの怪談の映画化です
トワライトゾーンみたいに四話で構成されたオムニバス形式です
日本人ならだいたい知っているお話ですし、四谷怪談のような怖がらせることを目的としている映画とは違う、どちらかというと不思議ストーリー集という性格の方が強いです
その意味からも日本のトワライトゾーンみたいな映画です
1964年の年末に先行公開
正月あけて1月から一般公開
怪談なのだから普通お盆興行でしょう
おめでたいお正月早々から怪談なんて見ようなんて人は普通いやしません
この時期に観てみるとやっぱり変です
気分が乗りません
雪女?まあそいうことで無理やり納得させるしかありません
配給は東宝
一体全体なんでこんな時期に公開したのでしょうか?
恐らく原因は黒澤明監督の「赤ひげ」の撮影遅延です
なんとまあ年末年始の書き入れ時の目玉として公開予定を組んでいたのに、その興行に穴をあけたのです
仕方なく急遽「三大怪獣 地球最大の決戦」の製作を急がせて1964年12月20日に公開させます
しかし子供向けですから冬休みが終わったらもう客足が止まります
天下の黒澤明の新作公開のつもりだったのですから興行予定館は最大級の数で、しかもロングランのつもりで興行予定枠を開けているはずです
もうなりふり構ってられず、とりあえず公開出来る大作「怪談」を投入したというのが経緯ではないでしょうか?
製作は文芸プロダクションにんじんくらぶ
この耳慣れない映画製作会社は、1954年に岸惠子・久我美子・有馬稲子の3人が設立したもの
この前年に締結された五社協定によって俳優活動が制限されると懸念して、専属契約下であっても他社出演ができることを目的につくられた独立系映画制作プロダクションです
最盛期には20数人の俳優が所属したそうです
人間の條件、乾いた花など、見応えのある良質な作品を作っていました
しかしお盆興行ならともかく、お正月明けに怪談映画を公開するなんて無謀すぎです
何を考えているのかと断固怒るべきです
案の定、興行はオオコケ
巨額の製作費をかけたため、赤字もまた巨額となり文芸プロダクションにんじんくらぶは、本作の為に倒産の憂き目にあってしまったのでした
かといって、駄目な映画かというとそんな事は全くないことは観ればすぐ分かることでしょう
各話毎に色彩設計がなされ統一された見事な映像美に驚嘆すると思います
「耳なし芳一」と「茶碗の中」ではセットの構成美に溜め息がでます
サスペリアの芸術的ホラー映画の企画発想の元ネタかも知れません
音楽の武満徹の前衛的な音楽との相乗効果も効いています
四話の中でも「茶碗の中」は特に小林正樹監督らしさが濃厚で、ピーンと張り詰めた内容は大満足です
ラストシーンの驚愕する杉村春子と中村鴈治郎の演技の凄さ、演出の冴え!
ついにここで総毛立ちました
斜めに傾ぐカメラアングルは実相寺監督の元ネタだったのかも知れません
アカデミー賞外国映画賞を前年の「古都」に続いてノミネート、カンヌ国際映画祭審査員特別賞を受賞するなど数々の映画賞に輝いているのは当然と思います
もちろん日本映画のオールタイムベストの一角を占めて当然の作品です