その夜は忘れない

劇場公開日:

解説

白井更生と「サラリーマン権三と助十 恋愛交叉点」の若尾徳平が共同で脚本を執筆、「家庭の事情」の吉村公三郎が監督した風俗ドラマ。撮影もコンビの小原譲治。

1962年製作/95分/日本
原題または英題:Hiroshima Heartache
配給:大映
劇場公開日:1962年9月30日

ストーリー

週刊ジャーナルの記者、加宮は、戦後十七年の原爆記念特集号取材のため広島へ出張した。しかし、原爆の傷痕は、今や原爆資材館の陳列ケースの中にしかない。一夜、加宮は親友の菊田に誘われてバー「オータム」へ行き、美貌のマダム秋子を紹介された。彼女の顔には何か憂いがあった。翌日、加宮は六本指の赤ん坊取材の途中秋子に逢った。話が取材のことになった途端、何故か秋子の態度は、よそよそしくなり足早に去った。赤ん坊を生んだ母親はいなかった。その帰途、彼は「オータム」に寄ったが、秋子はいなかった。加宮は原爆の取材を断念し、東京のデスクへ連絡した。東京へ帰る切符を買った加宮だが、何か去り難く「オータム」を訪れた。そこで金子が秋子に借金しに来たことから、彼女と口論になった。加宮が割って入り、金子と争う破目になった。加宮が酔ってホテルへ戻ると、秋子が待っていた。二人は太田川の畔に佇んだ。「あなたは本当に淋しい人なんだ」加宮の呟きに、秋子は小石を拾って彼に渡した。握れば砂になってくずれた。原爆にあった小石である。二人は川岸の旅館で向い合った。加宮はもっと秋子を知りたかった。加宮は秋子を抱いた。あえぎながら彼女は顔をそらし「あなたは、あたしを知らない」と、いきなり自分の胸元を開いた。秋子の肌に原爆の爪跡があった。乳房も見分けられぬほど、ひきつっていた。女学生だったあの日、原爆に遭ったのだ。「私はさっきの太田川の石なんです……」加宮の心は熱くなった。そして彼女を強く抱きしめた。秋子の両眼から涙があふれた。彼の胸に顔を埋め、うめくような慟哭が続いた。「ぼくの愛情を踏み台にして生きられるだけ生きてくれ」。という加宮の言葉に秋子は始めて女の幸せにひたることが出来たのだが……。

全文を読む(ネタバレを含む場合あり)

スタッフ・キャスト

全てのスタッフ・キャストを見る

関連ニュース

関連ニュースをもっと読む

映画レビュー

4.5ノーモアヒロシマを描いた佳作

2024年8月12日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

初見は2013年1月(@新文芸坐)、二度目は新型コロナ始まったばかりの2020年3月「若尾文子映画祭」(@角川シネマ有楽町)で映画館が一斉閉鎖になる直前に鑑賞。
今回3回目の鑑賞はDVDで初めて観て、予告編の別テイクで若尾文子の綺麗さを堪能。

本作は、若尾文子主演・吉村公三郎監督による広島原爆被害者を通して描かれる「ノー・モア・ヒロシマ」映画🎥

広島に汽車でやってきた記者(田宮二郎)がバーのマダム秋子(若尾文子)に魅力を感じて、物語は進められるが、根底には「原爆反対」の強いメッセージあり。

本作の2度目や今回(3度目)ともなると顛末を知っているだけに、若尾文子が田宮二郎に「(そんな取材するなんて)残酷ね!」の意味や若尾文子が何故そういう態度をとるのかなどが良く分かる。そして、演技の上手さに見惚れてしまう😳

この作品、スクリーンの左に走るタクシーを映しながらその右側はタクシーが走る街並み(その左右逆もあり)という凝った構図も素晴らしい。
原爆投下後17年経って、いまだに苦しんでいる人を取材しようと奔走する記者だが、広島原爆祈念館あたりで佇む場面では「斜めの場面」があり、これまた素晴らしかった。
記者がマダム秋子と一緒に『広島の街並みを俯瞰する描写』、これまた良い場面。
更に、「画面の右側には田宮二郎、画面の左側にガラスに映った若尾文子」という凝った構図も見られ、本作は「とにかく素晴らしい構図のオンパレード」である。

記者が、指が6本の赤ん坊を追いかけ回す場面はヤリ過ぎの感あり、マダム秋子(若尾文子)に「残酷ね!」と痛烈な一言。
指が6本という話は、手塚治虫の漫画「ブラックジャック」の『指』というエピソード(現在封印扱い)でも描かれているが、本作でもモラルの在り方を考えさせられるエピソードという気がする。

若尾文子は、登場したときから『原爆の話になると、何か過去を抱えている雰囲気』が感じられて、とても上手い。

マダム秋子が河原に降りて、記者に「広島の石よ」と言って渡した石は、握ると粉々になる原爆の悲惨さ。
マダム秋子の友人が記者に「秋子さんは、幸せそうにあなたからの手紙を読んでいました。秋子さんにとっては、あなたと過ごしたあの日が幸せだった」という展開、記者(田宮二郎)が川に入って広島の石を取りつかれたように探して握りつぶし慟哭する場面は、風化してきている広島原爆への怒り・嘆きなどを端的に表現した素晴らしい映画である。
川に田宮二郎が入る時に、川面に浮き出て見える若尾文子の姿も幻想的。

今回初めて気づいたが、戦後17年という時代設定の中で若者たちの姿も描かれるが、その中のひとり=江波杏子などは「私は原爆の時には生まれていなかったもん!」と言いつつ、バーでお酒を飲んでいる。「あれっ、17歳未満ではないの?」と思ってしまった😄笑
ただ、17歳にしては相変わらず艶っぽい江波杏子であった。

なかなかの佳作!

<映倫No.12927>

コメントする (0件)
共感した! 0件)
たいちぃ