「愛が崩れ逝く姿に人は耐え切れるのか」愛、アムール 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
愛が崩れ逝く姿に人は耐え切れるのか
ミヒャエル・ハネケ監督作品は今回が初鑑賞。
この方の映画は精神的にキツイと聞いてたので今まで観るのを躊躇してました。
飛行機の機内上映で鑑賞したので削除されたシーンもあるかもだが、
(英語字幕のみだったのでまず話を理解できてるかが怪しいが(笑))
ま、とにかく初ハネケ。
感想。確かに、キツい。キッツい。
老人による老人介護という重苦しいテーマを、重苦しいまま淡々と、リアルに描写する。
リアルに描写、と簡単に書くが、映画というのは奇妙なもので、
リアルをそのまま撮ればリアリティが生じる訳じゃない。
現実と同じ表情・風景を撮ればリアルに見えるものじゃない。
その点、この映画からは物凄い生々しさを感じる。
明け方の陽光のような、白みの強い、ひんやりとした映像。
定点もしくは低速の、静かな緊張感漂うカメラ。
顕微鏡を覗き込む学者のような低い体温を感じる。
音楽を排す一方、効果音への配慮は非常に細やかでもある。
本編。
身も心も衰えてゆく妻が、誰に対しても意固地になってゆく姿が悲しい。
ピアニストという過去を持つだけに、妻は“人からどう見られるか”により敏感だったのだろうか。
過去や他人の憐みを忌み嫌うように「CDを止めて」と頼むシーンが印象的だった。
そうでなくても食事・歩行あげくは排泄まで人の手が必要になるのは誰の自尊心にも堪える。
世話をする相手と親しければ親しいほど、感謝の気持ちよりも
申し訳ない、自分が不甲斐ないという後ろめたさが勝ってしまうものだと思う。
そんな妻を介護する夫も若くはない。
不審な物音を確認しようとしてもじれったいほどの速度
でしか動けないし、妻を抱き抱える姿も危なかっしい。
彼の閉塞感が投影されたかのような、窒息の悪夢。
ピアノの録音再生を止めた時の、言い様の無い喪失感。
妻の頬をはたいた時の、後悔と疲労の入り雑じった表情。
終盤の妻の姿は見るのが辛かった。
傲慢な介護士に任せるよりは、彼女の意思をそれでも汲もうとする
夫に世話してもらう方がずっと幸せだったと思う。
けれど、夫の最後の選択は果たして純粋に妻への『愛』と括って良いものなのか。
崩れゆく妻の姿に、彼自身が堪えられなくなったのも理由のひとつではないのか。
そうだとしても、僕は彼を責める気には全然なれないのだけれど。
評価が高いのは頷けるし、良い映画だと思う。けれど……しんどい映画。
<2013/3/27鑑賞>