「死生観を共有する相手。」愛、アムール ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
死生観を共有する相手。
またもM・ハネケの新作がカンヌでパルムドールを受賞した。
アカデミー賞では数々のノミネートと、外国語映画賞を受賞。
さぞかし残酷レベルも高いんだろうなと勝手に想像し^^;
主演のE・リヴァの演技に、冒頭から観入ってしまったけれど…
しかしすごいね~フランス人女優って。80代でも威風堂々。
夫役のJ=ルイにしたって若い頃のあの美貌(何たって男と女!)
A・エーメでなくても惚れちゃうくらいだった。
名優二人がこんなに歳をとって、愛し合う夫婦役を演じると
いうのも(しかも難役だし)とことん魅せますよ!の筋金入りだ。
だけど監督がハネケとくれば^^;
どんだけ残酷で嫌悪感を残すラストを持ってくるかと、ついつい
考えてしまうところなんだけど、それ以前にこの話はとことん重い。
老人介護問題、という部分にだけ焦点を当てて観ると、
うちもそうなんです。とか、我が家もじきに両親が…。などと
心配&懸念ばかりが浮かんでくる作りになっているのが結構辛い。
だがおそらく、妻の病を献身的に介護する夫の姿を、ハネケは
観せたかったんじゃなくて、いかにあんな姿になろうとも抵抗し、
早く死なせて。なんて必死に訴える妻の気高さ(プライド)が齎す
周囲との軋轢にどこまでこの夫が耐えていけるか、悪くいえば、
妻からの災難をこの夫に与え、傍で眺めている気がしてならない。
音楽家の娘は忙しいが、それでも父親に何度も意見をしに来る。
「なにか他にいい方法はないの?」
父親は首を振る。
「どうせホスピスに入れたって同じだ。それくらいなら俺にできる」
子供が思う親への愛情と、夫婦が背負う互いへの愛は似て非なる
ものかもしれないが、私も母の看病をする父に同じ想いを抱いた。
最近ことに身体が弱くなり始めた母は、何度も病院に行くのだが、
家のことは母に任せきりの父が、なぜか献身的に母を支えている。
やはり先立たれたくはないのだろうが、
いや、それだけでもないのだろうか?(愛、アムール)なんて思える。
老人が老人を介護せねばならない時代になった。
決して金銭に不自由のない音楽家夫婦でありながら、他人を拒み、
同情を拒み、(特に妻は)気高い自分のまま死んでいくことを望む。
妻の意志を汲んだ夫は、妻の言いつけどおり他人にひれ伏さない。
プロの介護士のお姉ちゃんに、お前は使えない女だと言い放ち、
「何このクソジジイ!くたばっちまえ!」なんて吐き捨てられても。
窓から入り込んでくる鳩は何を象徴してるんだろう、やはり自由か?
幾度も入りこんでくる鳩をついに夫は捕まえるが、すぐ放してやる。
日に日に記憶も精神も退行し、赤ちゃん返りを繰り返す妻。
泣き叫び、唸り、食事を拒否し、痛みを訴える毎日。やがて夫は…
名作「カッコーの巣の上で」と、やや被るシーンがある。
何を以て人は幸せに旅立てるのか、自分がその人の立場にならねば
永遠に理解できないことだが、私とて遺された者を苦しませたくない。
生きている歓びは、自分が自分だと分かるうちに味わえれば十分だ。
夫婦はその人の死生観にまで精通する必要があることを告げる作品。
(エンドの静寂がまたハネケ。観客も皆さん静かに出て行きました^^;)