劇場公開日 2013年3月9日

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愛、アムール : インタビュー

2013年3月7日更新

カンヌを制し、アカデミー賞外国語賞受賞 M・ハネケ監督が語る「愛」

昨年のカンヌ映画祭最高賞パルムドール受賞後、世界各国の映画祭を席巻しているミヒャエル・ハネケ監督の新作は、フランスの名優二人を起用し、長く連れ添った老夫婦の愛の形を描いた物語。時に冷徹な視線で、人間の営みを映し出してきたハネケ監督作だが、今作はひと味違った余韻を残す作品に仕上がっている。今年の第85回アカデミー賞でも、フランス語作品でありながら作品賞はじめ5部門ノミネートという快挙を果たした。2月24日に行われた授賞式直後、ハネケ監督に外国語映画賞受賞の喜びと、作品について聞いた。

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——アカデミー賞外国語映画賞受賞おめでとうございます。今のお気持ちを聞かせてください。

「ありがとうございます。もちろん嬉しいですよ。他に何が言えるでしょうか(笑)。こういったコンペティションで賞をとれたのですから大変嬉しいです」

——これまでに、本作はカンヌ国際映画祭ほか世界的に様々な映画賞を受賞されました。批評家や世界中の人々に受け入れられたことについては、どうお考えですか。

「そうですね、私は、いつもどうしてこんなにヒットしたのかな、と自問するわけです。今回の作品は例外的にたくさんの賞を受賞しましたし、観客の評判も非常に良いですよね。例えば作品によっては良い作品なのに、観客の評判がよくないこともありますから、なぜ今回の作品がこれほど受け入れられたのか、と考えると、やはりテーマではないでしょうか。皆の心を打つのだと思います。それはヨーロッパだけでなく、アジアやアメリカでも皆さんの心を打つところのあるテーマだったのではないでしょうか。実際たくさんの人に言われました、あなたは私の家族の話を語ってくださいましたね、と」

——本作で描かれる介護の問題は日本でも社会的な問題です。そういった観点からも日本のジャーナリストには高く評価されています。そのことについてはどうお考えですか?

「それはですね、きっと全世界でも共通のテーマだと思います。80年代より前には病気のご老人を自宅で介護することが可能だったと思うのですが、80年代以降はガラリと変わり、みんな仕事をしていて忙しい。悲しいことではあるのですが、老人になって介護が必要な人たちを家族では介護できず、病院やホスピスに預けられるということが、とても多くなっていると思うのです。ですので、本作の中で出てくる介護の仕方というのは、典型的な話ではないかもしれません。というのも、彼らにはお金があって、だからこそ介護人を家で雇うことができる。そういう現実でした。ただ、私が言いたいのは、自分にとって、介護の問題が今回の一番大切なテーマだとは思っていません。この映画で社会問題を扱うつもりはなかったのです。私が扱いたかったのは、自分が本当に愛している人の苦しみをどういう風に周りの人が見守るか、そういうことを描きたかったのです」

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——今回、ジョルジュ役はジャン=ルイ・トランティニャンを想定してシナリオを書かれたと聞きました。彼のどういったところがジョルジュだと思われたのでしょうか?

「彼は私が若い頃から大好きだった俳優の一人なんです。もう一人はマーロン・ブランドでした。だからこの映画を撮ろうと思ったときに、すぐに彼のことが思い浮かびました。ただ、老人のラブストーリーを描くときに、すぐにこの人の心根は温かいということを観客に思わせるような俳優を選ぶことは簡単なことではありません。温かみをもっている俳優を見つけることが大切でしたから、もしこれが他の俳優しかいなかったら、この映画を撮っていなかったかもしれませんね。もちろん脚本を書いているときには、この役を彼が引き受けてくれるという確信はなかったですが、何とか説得できましたね。というのも『白いリボン』のときのフランス版ナレーションを彼に頼んでいて、映画をみて非常に感銘したと言ってくれたので、今回も快諾してくれて私自身とても嬉しく思いました」

——一方エマニュエル・リバはオーディションで選ばれたと聞きました。彼女に決めたポイントは?

「もちろん彼女のことは女優として知っていました。若いときに『二十四時間の情事』も観ていましたし、大好きな女優でした。その後、彼女は映画女優としては50年くらいブランクがあり、今回オーディションをやったのですが、会って少しテストをしたら、すぐに彼女が一番いいなと思いました。他の女優さんよりうまく演技をしたという理由だけではなく、トランティニャンと夫婦役をするときに、まさに50年くらい寄り添ってきた夫婦として真実味のある、お似合いの夫婦になるのではと思ったのです」

——監督にとって、映画を作る際にもっとも大切にしていることはどんなことですか?

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「やはり観客のことを考えるということを大切にしています。それは映画に限らず、小説でもアート作品は何でも、それを受け取る人のことを真剣に考える、ということが非常に大事なのではないでしょうか。そうでないと、真実というものは語られない、語ることができないと思うのです。受け取る人とコミュニケートしたいという思いを大切にしています。それは何も誰にでも簡単にわかるようなシンプルな言葉を使うということではないのです。ただ、私が観客としてこの映画を見たいな、というような作品を作りたいと思っています。さらに言えば、語りたいものに一番ふさわしい最適なフォーマットを見つける、ということが大切ではないでしょうか。今、世に出ている作品の中には、その点を考慮していないものもありますが、このストーリーを語るには、どういう語り方がよいかを見つけることが非常に大切だと思います」

——これから、この作品をご覧になる日本の皆さんへ、メッセージをお願いします。

「日本でこの作品が、どう批評されているのかは私にはわかりませんが、おそらくそこで説明されているような映画ではないと思いますよ。つまり、病気であるとか、死であるとか、そういうものを描いた作品ではなく、これは愛について語られた映画なのです。すでに見た多くの人たちから、見る前は先入観で怖くて、憂鬱になるのかな、病気や老人の話で気分が滅入るかな、と思っていたけれど、実際観た後は、何か慰められた気持ちになって映画館を出ることができた、という言葉を多く聞きました。日本でこれからご覧になる方にはぜひそのことをお伝えしたいです。そして、これから色々な国々で上映されていきますが、多くの国で受け入れられていくことを願うばかりです」

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