「良作だが、この1作だけで終わらせてはいけない」永遠の0 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
良作だが、この1作だけで終わらせてはいけない
原作未読者の意見です。
まずは役者陣の話から。
岡田准一のきりりとした清涼感のある演技は好きだった。
憔悴した時とのギャップも良いし、真摯に役を演じていたと思う。
周りを固めるキャストも良い。
若手実力派の染谷将太はやっぱりうまい。純朴そうな表情が自然。
主人公をライバル視する景浦を演じた新井浩文も、殺気のある眼
が見事だった。(調べてみたら在日三世だそうだ。どんな気持ち
でこの役に挑んだのか、気になる)
橋爪徹、田中ミン、そして今は亡き夏八木勲らベテラン勢の演技
も素晴らしい。それにしても夏八木勲、亡くなったとは思えない
ほど色んな新作に出てるなあ。改めて、良い役者さんでした。
CGもかなり頑張っていた。不自然に見える部分はあるが、
邦画の中では現時点で最高レベルのCGだと思う。
サスペンスも孕んだシナリオはテンポも良いし、
後半からは涙を流したシーンも多かった。
あの戦争を戦った人々は、大切な家族を護るために命がけで
戦ったのだという畏敬の念も覚えた。
基本的には、反戦のメッセージや現代の人々に向けたエールも
感じる良作だったと思う。観て損は無い映画だと思う。
だがしかし、気に入らない点は大きい。それは、
特攻隊員を徹頭徹尾『戦争の被害者』として描いている点だ。
そのこと自体は全く間違いでは無いが、根はもっと深いだろう?
* * *
負傷する兵士の描写を思い出してほしい。
真珠湾攻撃を受けるアメリカ艦隊や、特攻によって命を
奪われた敵兵に関する描写は爆破シーンや遠撮のみ。
一方で、こちらの兵士が傷を負い、血を流す姿は詳細に描かれる。
特攻が成功せず悲痛な叫びを上げて散っていく描写もしかり。
負傷するアメリカ兵を描かなかったのはアメリカ側への配慮
かもしれない。負傷する日本兵を描いたのは戦争の犠牲となった
彼ら兵士を悼む気持ちからだろう。特攻の虚しさを訴える上で、
特攻に失敗する描写を多く盛り込んだ点も頷ける。
だが視点を変えれば『零戦で殺された側については少しも
触れず、死んだ日本兵のみが戦争の被害者であるかのように
描かれている』などと言われ兼ねない描かれ方でもある。
特に最後、アメリカの船に突入せんとする主人公の姿。
銃弾の嵐を抜ける零戦のヒロイックな姿、米兵が恐れおののく
様子、主人公の毅然とした表情を延々と映し、明らかに特攻が
成功するものと見せて、ブラックアウト。
映画の締めとしては良い。だが過剰にヒロイックだと感じる。
戦争賛美、特攻賛美だと言う人が出てきてもしようがない
終わり方とも思える。
* * *
鹿児島出身の僕は知覧の特攻隊基地を4度ほど見学している。
彼らは国や家族を護るために自分の命を犠牲にする事を選んだ
尊敬すべき人々だと思っている。
しかし忘れてはならないのは、特攻隊の攻撃で殺された側から
見れば、彼らは『クレイジー(狂っている)』と呼ばれた人殺し
だったということ。彼らは敵から恐れられ、憎まれたのだ。
特攻隊を殺人者として描け、と言っているのではない。だが、
日本にとっては大事な家族を護るために戦った英雄である彼らが、
別国にとっては誰かの家族の命を奪った憎悪の対象でもあった
事を描かないのはフェアとは言えない。
自分にとって都合の良い所も悪い所も知って初めて、
その相手に正しい評価を下せるというものだろう?
彼らを特攻へ駆り立てた指導部側(=若者たちを『狂気の人殺し』
と言われる立場に追いやった者達)への言及がほとんど無い点は
もっと気に入らない。
尺の問題もあるのだろうが、開戦から特攻に至る経緯を丁寧に
描かず、『そういう時代だった』の一言のみで片付けて
しまっている。それでいいのか。
この物語の作り手は、特攻隊の人々に心を寄せすぎて、
冷徹な視点が足りない。相反する視点を十分に描いていない。
むしろ、それらの話題を避けているようにすら僕には思える。
『中立である』というより『腫れ物に触らないようにしている』
という印象を受けるのだ。それが気に食わない。
(hanakentaroさんのレビューにあるよう、エンタメとして描くと ここまでが限界になってしまうのかもしれないが)
* * *
基本的には反戦を謳った映画だとは思う。
特攻隊の方々への尊敬の念ももちろん感じる。
もうあんなむごい戦争を繰り返してはいけない。
戦争を戦った先祖の意志を引き継ぎ、
人々の為に、平和の為に一生懸命生きなくては。
この映画はそんな気持ちを僕らに抱かせる。
だが、まだ弱い。
この映画は特攻隊という存在を知る入門編としてはいいが、
この1作のみで戦争の悲しみや業の深さを理解したなどと
考えないよう注意しなければいけないと思う。
太平洋戦争の起こる前にはもはや戻れない。今となっては
「そういう時代だった」としか言えない。それは仕方がない。
だが僕らの世代は「そういう時代だった」で終わらせては
いけない時点にいるのだ。
過去を学び、それを繰り返さぬよう実践するべき世代なのだ。
おそらく1,2年前に本作を観ていたら、僕ももう少し高い評価を
入れていたかもしれない。だが今の日本はどうもキナ臭すぎる。
政治の話は大嫌いだが、最近はこの映画の時代へと逆戻りしている
のではないかという危惧を抱かずにはいられない話題ばかりだ。
以上。
口やかましくてスミマセン。
〈2013.12.22鑑賞〉
Gokiです。
すみません。ちょっとだけお邪魔いたします。
>今の日本はどうもキナ臭すぎる。
海外から見ても凄くキナ臭いです。
(海外在住こそネトウヨが多いような感じですが)
日本に限らず、世界的にそういう傾向にありますが、
日本の場合は、合理性や損得勘定を超えてるようで、
そういった意味で、タチが悪そうな感じがします。
岸田秀が言うには、
>近代日本は、自国を貶め、外国(アメリカを初めとする欧米諸国)を崇拝し、
>外国のようになろうとする卑屈な外的自己と、
>外国を憎悪し軽蔑し排除しようとする誇り高い誇大妄想的な内的自己とに
>分裂した精神分裂病患者のようなもの
>精神分裂病は、現実を無視して内的自己を押し通す=徹底抗戦=発病期か、
>外的自己を立てて内的自己を守る=全面服従=病前期かの極端な選択肢しか
>取り得ない傾向にあり、中間がなく突然切り替わる。
ですので、今は発症に向かってるんだと思います。
ケイさん、
返信ありがとうございました。
浮遊きびなごです。
自分の意見とは悉く異なりますが、ケイさんのような
意見の方もおられる、ということは理解しています。
育った環境や見知った情報で人の意見は千差万別ですから、
お気を悪くされないでくださいね。
それに、共和党と民主党どちらにつくか?という観点は
なるほど私もあまり意識していなかった点です。これから
その辺りも注視して政治のニュースを考えるようにします。
兎にも角にも、この映画のような事が再び起こるような
世の中にならないことを祈るばかりです。
ちなみに原作は先週購入しましたが、まだ読み出せてません(笑)。
読書力がないヤツはこれだからイカンですね。
それでは!
丁寧なご返信、ありがとうございました。
聡明な方ですね。
あの行動に関してはシンプルです。あくまでも国内の問題です。
怒るならば勝手に怒らせておけばいいのです。
いったい、国内の宰相の、国内の行動に関して、
他国に文句を言われる事例は世界のどこにありますか。
元々、朝日新聞と某野党議員が中国に行き、共産党に何度も何度もご注進して、やっと問題にしてくれた事ですから。A級戦犯合祀とか、天皇が参拝しないとか全く関係ないのです。やはり国内の問題なのです。
ある意味、安倍さんは米国の今の政権を見限っていると思います。
オバマの無能さに気づいたのでしょう。
すでに共和党と連携を取っているという情報もあります。
みなさん、米国米国と騒ぎますが、2つの米国がある事を皆報じません。
もうひとつのメッセージは、今度韓国がデフォルトになった場合、
「もう助けないですよ」という事です。(というより韓国が泣きつかないようにカードを切った訳です)
それは米国にとっては「失望」以外の何物でもないでしょう。
日本がもう尻拭いしてくれないのですから。
映画の話から外れてしまい、すみませんでした。
私も映画の出来自体は不満があります。原作はよかったですが、映画はVFXの拙さが気になって、泣くまでいかなかったですね。
【閲覧注意:コメント内にネタバレ等含みます】
ケイさん、コメントありがとうございました!
原作の方も読んでみることにします。
著者と映画制作側とで解釈や意図の違いもあるはずですね。
ただ、サンデーモーニングは正直キライです。
個人的な意見ですが、どうも結論に誘導されてる感じに思えて。
同じ時間帯なら、辛坊治郎さんが出てる番組とかを見てますね。
ここから先はもっと個人的な意見になるのですが……
秘密保護法案も安全保障会議もコンセプトは分かりますし
実際に有用な点もあると思います。領土問題でのイザコザや
国際テロ対応においては特に。
ただ、フールプルーフというか、議論が妙な方向に行った時に
外野が口出しできる仕組みがイマイチ固まって見えない点が
薄気味が悪い。
『悪魔でも聖書は引ける』なんて言葉もあります。どんな高尚な
目的で作られた物でも、後々の為の安全装置が見えなければ不気味です。
ただこのレビューで僕は、それよりももう少し後の時系列の
話をしています。よりデリケートで、より手っ取り早く
外交関係を悪化させ兼ねない話題の方です。
身を守る術は幾重にもあった方が良いですが、相手の怒りを
買ってまで個人的信条を優先させることに安全保障としての
意味があるのか(あの行為に賛成か反対かは別として)、
しかも景気上昇ムードで国外からの日本への評価が
高まりつつあった最中に行うメリットがあったのか、
その辺りが僕には見えない。
そうなると今の政権は『キナ臭い』方向を望んでいる人間
が率いる政権なのではと考えてしまう訳で。
あくまで個人的な意見ですので「あんたとは考えが違う」と
スッパリ聞き流してしまって結構です。
それに、このレビューを投稿する際に反論あるものと心構えも
していたので、このレビューに賛同できない人間もいるぞと
ハッキリ他の方に示していただけた分、ありがたかったです。
自分なりに調べてみようと思う方もきっと増えるでしょうから。
僕はケイさんほどに政治に対する関心は高くないですし、
TVでバラエティばっかり見てる人間なので知識も考えも
至らない所が多いと思います。次の選挙までには、
もうちょっと色んなメディアで勉強しておかなければです。
ありがとうございました。
あなたの疑問はすべて原作に描かれている。
それと今の日本はきな臭いというのは、
日本版NSCや秘密保護法案などの事でしょうか。
そうであれば、勘違いも甚だしい。
朝日・毎日やTV(関口宏サンデーモーニング等お好きでしょう?)の
印象操作にまんまとひっかかっています。
いわば日本を守る・戦争を防ぐための法案ですよ。
すべてドンパチを未然に防ぐ為の施策なんです。
そしてメディアがなぜ安倍を総攻撃するのか、裏事情をもっと勉強なさったらどうでしょうか。
本映画はまだ観ておりませんが、いくつかの鋭い指摘がこれからの映画鑑賞判断の基準の一つになりそうです。敗戦直後生まれの年寄りには、特攻隊とイスラムなどの自爆テロとの本質的な差異が不明であります。被害は忘れがたく、加害は水に流して忘却の彼方へ?政治は大嫌いでも政治の影響を一番に受けるのは弱い我々庶民ですから、よくよく考えて投票行動することが大事と思っています。