「ソマリアの現実。」キャプテン・フィリップス ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
ソマリアの現実。
描かれた事件がニュースになった時のことは覚えている。
当時、映画ではジョニデのパイレーツ…なんかが流行っていて、
「ホンモノの海賊が存在した!?」のような文句が並んだが、
実際の事件はとても笑事や吃驚ネタで終わるものではなかった。
さすがP・グリーングラス。今回も緊迫感たっぷりで描いている。
今作を観ている間、なぜか目には涙が溢れて仕方なかった。
いつ誰が殺されてしまうのか分からない、という恐怖よりも、
ソマリアの現実、彼らの貧困度が背景に見えてしまうのが辛い。
今作では船長側と海賊側、それぞれの準備段階を並行して描き、
船長が乗り込む当日、妻に「これからはサバイバルだ」という
メッセージを残す。まさにその通りになるのが怖いところだが、
実は貨物船側はすでに「海賊の脅威」を察知していたのが分かる。
なぜ危険を冒してそんなルートを!?と思わなかっただろうか。
船会社には今も訴訟が続いているらしく、経費削減で危険海域に
救援物資を積んだ貨物船が一隻だけ、武装もしていないのだから、
これは狙われるのは当然。「まさか」と甘く見積もった点が多い。
海賊に乗り込まれてからは、まさに一触即発。船員はあくまで
海賊に見つからないように、船長は海賊の気を逸らし、なんとか
船と船員を守ろうとするが…。何しろ怒号と緊張が飛び交う場面
の連続になるので、船長が人質となってボートに乗り込むまでは
怖くて怖くて堪らない。誰か殺されても不思議でない状況なのに
海賊が実は漁師だった、まだ子供だった、というのを垣間見せて
「彼らに殺人の意思はない」ことを明確にする。ほぼビビリながら
銃を向けている海賊を見る船長の「できればお前らも助けたい」と
いう思いがT・ハンクスの顔にアリアリと描かれる。
何か手立てはないか。双方が助かる道はないか。問題はそこだ。
最後に軍が乗り出してくれば、もう助かる見込みのない海賊達に
船長は最後まで説得を続ける。救援物資を届ける仕事の船長が、
ソマリア人の虐殺など望んでいないことが分かる場面だけに辛い。
大金を手にしたら夢にまで見たアメリカに行くんだ、などと語る
痩せ細ったムセというボス。知力も体力でも勝る米海軍が一人の
船長を救出するためにとった作戦とその終結には、やったー!!
なんていう胸の梳く状況はなく、船長の嗚咽ばかりが響き渡る…。
考えさせられるシーンが幾つも挿入された、観応えある作品。
後半の救出シーンがやや長くてダレるが、あとは恐怖の連続。
ハンクスの演技は賞に値するほど素晴らしく、彼の表情が流れを
支配するくらい緊迫感を醸している。あの号泣が頭から離れない。
(海域警備は厳しくなったらしいけど、貧困格差はどうすればいい)