キャプテン・フィリップス : インタビュー
ポール・グリーングラス監督が語る、名優トム・ハンクスの“圧倒的な信頼感”
「ブラディ・サンデー」「ユナイテッド93」の実録ドラマはもちろん、ドキュメンタリーさながらの緊迫感でアクション映画の地平を開いた「ボーン・アルティメイタム」を手掛けたポール・グリーングラス監督が、最新作「キャプテン・フィリップス」を引っさげて初来日。2009年にソマリア海域で起こった、海賊による米貨物船人質事件を再現した実録ドラマで主人公フィリップス船長を演じ、渾身の姿を見せるトム・ハンクスへの思いについて聞いた。(取材・文・写真/編集部)
「(トム・ハンクスは)この役に必要なものをすべて持った完璧な人物。逃すことのできない大きなチャンスだった」と、グリーングラス監督は、本作を手掛けることになった大きな理由の1つに名優トム・ハンクスの存在を上げた。「以前から知り合いではあったんだけど、チャンスがなくて。素晴らしい俳優だから、いつか一緒に仕事をしたいと話し合っていた」と振り返る。
ハンクスが演じるのは、09年4月、ソマリア海域で海賊の襲撃を受け、コントロールを奪われてしまうことになる米貨物船マースク・アラバマ号の船長、リチャード・フィリップス。乗組員の命を救うため、フィリップスは自ら人質となり、彼の救出をめぐってアメリカ海軍が作戦を繰り広げた模様は刻一刻とニュースで伝えられ、全世界を駆けめぐった。
この事件を、フィリップスの回顧録を基に「ニュースの天才」「アメリカを売った男」の監督兼脚本家、ビリー・レイが脚色。内容にほれ込んだハンクスがプロジェクトへの参加を表明し、スリリングな実録ドラマを撮らせたら屈指の実力を誇るグリーングラスに監督のオファーが届いたのだ。
グリーングラスは、「ストーリーの魅力ももちろん大きかった」と言う。
「興奮を呼び、非常にドラマティックな物語だ。そして、フィリップス船長と海賊のリーダーという、素晴らしい2人のキャラクターが登場する。誠実で責任感は強いが平凡な普通の男と、残忍でずる賢い男が、それぞれの立場ならではの強い信念を持って対決する。それに、実在する“本物の海賊”というのもいい。明らかにハリウッド的な、ファンタジーから生まれた海賊ではないからね」
黒い肌に痩せこけた風ぼう、白い目をギラつかせて自動小銃を振るう海賊たちと、彼らにき然とした態度で向き合うフィリップス船長。ハリウッド的な勧善懲悪、海賊を完全なる“悪役”として描くことも可能だったにも関わらず、グリーングラスは彼らがなぜこうした蛮行に至ったのかを冷静に描き出す。海賊には海賊の事情がある、だからこそ、彼らとフィリップス船長が織り成すドラマが生身の熱を帯び、見る者はその場をリアルなものとして“目撃”することになるのだ。
「監督という立場上、誰に対しても悪くは言えないんだが(笑)、本当にトム・ハンクスは素晴らしい俳優だった」とグリーングラスは太鼓判を押す。そして、“アカデミー賞ノミネートは確実”との呼び声も上がる、ラスト10分のハンクスの壮絶な演技を「彼の過去の出演作の中でも最高だと思う」と絶賛する。さらに、「彼が素晴らしいのは、なにも俳優としてだけじゃない。人間としても素晴らしく、映画製作というチーム作業に対してとても献身的であり、エゴがない。他人を信頼してくれて、常に誰に対してもオープンでいてくれたことが、我々にとってどれだけありがたかったか」と語る。
全米では、公開4週目を迎えて累計興収7200万ドル超。世界興収は1億ドルに迫るヒットを記録中(10月末現在)。批評家からの評価も高い。
「好評を受けて、ひとまず安堵の気持ち。私は、観客が私の映画を見て『見に来てよかった』と思ってもらえることが、一番映画を作るモチベーションにつながるんだ。だから時々、上映している映画館に映画の終わりの方で入って、後ろの席から観客の反応を確かめている(笑)。日本の皆さんに『キャプテン・フィリップス』を見てもらうことも、本当に楽しみで仕方ないよ」
ジャーナリスト出身の社会派映像作家でありながら、そこには“映画と、映画を作ることが大好きでしょうがない”という無邪気な一面があった。