Virginia ヴァージニア : 特集
07年に、10年ぶりに監督復帰して以来、意欲的に作品を送り出している映画界最高の才能のひとりフランシス・F・コッポラ監督が、注目女優エル・ファニングをヒロインに迎えて、幻想的なミステリーを作り上げた。8月11日に公開される、新生コッポラの最新作「Virginia ヴァージニア」は果たしてどのような作品なのか?
フランシス・F・コッポラ×エル・ファニング
“生まれ変わった巨匠”が、“いま最も輝く才能”とともに挑む
幻想と禁断のゴシック・ミステリー
■空白の10年を経て、再びメガホンをとりはじめた映画界屈指の名監督
よりパーソナルなテーマを得て、さらに深遠さを増す“新生”コッポラ
“フランシス・F・コッポラ”という名前を聞けば、映画ファンを自認する者なら、誰もが畏敬の念を感じるに違いない。60年代にB級映画の帝王ロジャー・コーマンのプロダクションから映画人としてのキャリアをスタートさせ、「THX-1138」「アメリカン・グラフィティ」のプロデュースでジョージ・ルーカスを「スター・ウォーズ」に向けて後押しし、さらにはアカデミー賞にも輝くマフィア映画の金字塔「ゴッドファーザー」と「地獄の黙示録」で、一気に名匠の高みへと登りつめた。
だが、97年のマット・デイモン主演「レインメーカー」を最後に、コッポラはメガホンを置くことになる。新作「Megalopolis」の準備中に、舞台となるニューヨークを9・11のテロが襲い、内容の大幅な変更を余儀なくされたのが事の真相だが、失意のコッポラをルーマニアのひとつの小説が救う。それが、07年の監督復帰作「コッポラの胡蝶の夢」の原作「若さなき若さ」だ。
年老いた学者が雷に打たれて若さを取り戻すファンタジーに触発されて以降、コッポラは自らに「オリジナルストーリー」「個人的要素」「自己資金」という3つのルールを課し、より先鋭的でより個人的な──芸術家本来の姿への回帰を果たした。それは、ハリウッドの巨大システムの中心にいたかつてのコッポラから完全に生まれ変わった姿、まさに“新生”コッポラの誕生である。自身の家族にインスパイアされた「テトロ 過去を殺した男」に続き、新生コッポラの第3弾が本作「Virginia ヴァージニア」。長編デビュー作「ディメンシャ13」(63)でも描いた“ゴシック”の世界に、かつて事故で息子を失った自らの悲しみを織り込み、より深遠さを増した独自世界を生み出したのだ。
■コッポラが出会った“新たな才能”=エル・ファニング
ヒロイン“V.(ヴィー)”が幻想的な世界で輝く
新生コッポラが本作でヒロインに据えたのが、愛娘ソフィアの監督作(コッポラは製作を務めた)「SOMEWHERE」で大きな注目を集め、「SUPER 8 スーパーエイト」でもみずみずしい魅力を放ったエル・ファニングだ。
長年コッポラとチームを組んできた製作総指揮のフレッド・ルースも「彼女以外に考えられなかった」と話しているファニングが演じるのは、かつて凄惨な事件が起こった町にサイン会のためにやってきたミステリー作家が、現実なのか幻なのか分からない世界で出会う“V.(ヴィー)”と名乗る謎の少女。白いコルセットとシフォンドレスのロリータ・ファッションに透き通るような白い肌が、より幻想的な雰囲気を醸し出し、バル・キルマー演じる作家ボルティモアの運命と、現実世界で起こった胸に杭を打たれて殺された少女の真相を導いていく。
現実と幻想、過去と現在を行き来しながら、2つの殺人事件が謎の少女と小説家を中心に絡み合っていく本作は、デビッド・リンチ作品の悪夢的な様相も呈していきながら、驚きの結末へと進んでいくのだ。
■コッポラ監督の英知とファニングの輝きが織り成す「Virginia ヴァージニア」の魅力
よりパーソナルな映像作家へと回帰したコッポラが、いま最も輝く才能=ファニングと出会ったことで実現した、「Virginia ヴァージニア」の見どころがここだ。
【混じり合う2つの世界】
ときには幻想的な描写を用いながらも、あくまでも“現実”にこだわって作品を作り続けてきたコッポラだが、復帰作「コッポラの胡蝶の夢」で初めて“夢”をモチーフに作品を撮り上げた。
本作を製作するきっかけとなったのも、コッポラがイスタンブールで見たという“夢”。「荒れ果てた行楽地の会堂にいて、そこで歯列矯正用ブリッジをつけた茶目っ気のある少女と出会った。ふざけながら彼女は自分がバンパイアだと言った」というその内容は、まさに本作で主人公ボルティモアがV.に出会うシーンそのもの。コッポラの夢へのアプローチはさらに先鋭化し、本作では主人公の夢という形を借りて同じ場所の過去が描かれる。その出来事が、現実にも影響を与える構成となっているのだ。
【退廃的で鮮やかな映像美】
現実と幻想の映像の対比もまた鮮やか。コッポラによれば、幻想のシーンは「夜間場面を昼間に撮影した。ほとんどモノクロに近い暗青灰色の月明かりの映像を使い、そこに鮮やかな赤やゴールドの色味を加えた」とのことで、対する現実のシーンは「非常に古典的なカメラワーク」と語る、ショートレンズを使った「オーソン・ウェルズやグレッグ・トーランドが始めた簡潔でシャープなフォーカス」による撮影。その2種類の映像が相まって、不気味かつ鮮やかで美しい幻想世界を生み出している。
また、幻想の世界では、コッポラに大きな影響を与えたアメリカ文学を代表する作家エドガー・アラン・ポーが登場。運命にさまよう主人公を導く役回りなのが興味深い。
【少女“V.”とは何者か?】
そして、エル・ファニングが演じる“V.”とは果たして何者なのか? 前述の通り、そのキャラクター造形はコッポラの夢に現れた少女を基にしている。コッポラ自身が「私の夢の小さな幽霊が意味するものとは?」と、作品作りを通してその正体に迫ろうとしていたことを明かしている。
劇中では、過去の世界で教会に幽閉されている子どもたちの1人としてヴァージニア、主人公が罪の意識に苛まれ続ける娘としてヴィッキー、そして頻出するキーワード“バンパイア”という3つの「V」が浮かび上がってくる。「彼女は我々が人生の中で失った何かなのか、彼女は美しいものの象徴なのか、真実そのものなのか、儚い青春というだけなのか?」──その答えは、ラストで明らかになる。