劇場公開日 2012年8月11日

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Virginia ヴァージニア : インタビュー

2012年7月24日更新
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巨匠フランシス・フォード・コッポラが自らに課す“3つのルール”

「ゴッドファーザー」3部作にはじまり「地獄の黙示録」と、映画史に幾度となくその名を輝かしく刻んできた巨匠フランシス・フォード・コッポラ監督待望の新作「Virginia ヴァージニア」が、ついにベールを脱ぐ。「レインメーカー」(97)発表後はプロデュース業に専念していたが、10年の沈黙を破り、「コッポラの胡蝶の夢」(07)で監督業に復帰。新星エル・ファニングを迎えて挑んだ今作は、エドガー・アラン・ポーをモチーフにしたオリジナルのゴシックミステリーだ。コッポラ監督がインタビューに応じた。(取材・文/山崎佐保子)

(C)Zoetrope Corp. 2011
(C)Zoetrope Corp. 2011

「ある夜、トルコのイスタンブールで地酒を飲んでいて夢を見たんだ。それは、歯に矯正器具をつけた少女が私に歯を見せ、地下の墓に眠る子どもたちのことを話すという内容で、ポーの世界観にとてもよく似ていた。だけどその夢には結末がなかったから、私が続きを書いてみようと思ってね。そこでキャリアも私生活も下降気味の小説家を主人公に、彼が再起するために必要な物語を探すという設定を思いついたんだ。夢に物語を求めてひたすら眠ろうとする男が、最後には夢の中でパーソナルな答えにたどり着くという物語をね。この作品は私自身の夢に着想を得て生まれた。だから私がポーを案内人に選んだのではなく、彼が突然私の目の前に現れたという感覚なんだ」

このように、まるでコッポラ監督がポーに誘われるかのようにして生まれた作品が、異色ゴシックロマンス「Virginia ヴァージニア」。バル・キルマー扮する落ち目の小説家が、サイン会のため寂れた地方都市を訪れる。その数日前、町では胸に杭を打たれた身元不明の少女の遺体が発見されるという事件が起こっていた。小説家は、夢に登場する謎の少女「V.」やエドガー・アラン・ポーの幻影に導かれ、現在と過去に起こった事件をひも解きながら、新たな小説を生み出そうとする。

「とにかく映画製作を楽しもうという気持ちだった。ある70歳の男が、20歳の時に作るべきだった映画を撮ることになったら、どんなトーンで撮るだろうかって考えながらね。少人数の精鋭スタッフだけで大袈裟なトレーラーもないし、ほとんどの撮影が我が家の近くの森だったから、とても気持ちのよい環境だったよ」。そんなコッポラ流のリラックスした撮影現場では、「夢のシーンは夜が多いけど、実は私が夜遅くまで起きているのが嫌だったから昼間に撮ったんだ(笑)。白黒と思う人も結構いるみたいだけど、青いムーンライトに赤やオレンジの明るい色味を加えてクラシカルな美しい夜を描きたかったんだ」と明かす。

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コッポラ監督は若くして、“インディペンデント映画の神”として知られるロジャー・コ―マンに師事。これまでポーの作品は何度も映画化されてきたが、コーマンの監督作「アッシャー家の惨劇」(60)で初めてポーの存在を知ったという。以来、ポーに対する深い尊敬の念を抱いてきた。

「ポーは今ではアメリカ文学を代表する偉大な作家として、ハーマン・メルビルやナサニエル・ホーソーンらと同様にリスペクトされているけれど、当時はほとんど認知されることなく貧困の中に死んでいった不遇の作家なんだ。フランスのシャルル・ボードレールが『大鴉』(ポーの代表作である詩)などを美しく翻訳をしたことで、南米アルゼンチンへと伝わっていったという経緯がある。彼はゴシックロマンスの発明者であり、探偵小説やその他のジャンルでも先駆的な作品を発表してきた先駆者的な存在だったんだ」

タイトルロールを演じるエル・ファニングは、娘のソフィア・コッポラ監督が第67回ベネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞した「SOMEWHERE」や、J・J・エイブラムス監督作「SUPER 8 スーパーエイト」などで脚光を浴びた若き実力派。映画界の新たなミューズとして映画監督たちを惹きつけるエルの魅力とは、一体どんなものなのだろうか。

「ソフィアの『SOMEWHERE』でのエルの芝居がとてもチャーミングで大好きだったから、私の映画にも出てくれないかとお願いしたんだ。この役を演じた時は13歳で若かったけど、素晴らしい芝居を見せてくれたよ。ポーはいとこの少女だけを愛していたけれど、貧しかったために結核だった彼女を救うことができなかった。だからその失念が若い少女のイメージによく表れているし、ゴシックロマンスの世界につながっていくんだ」。そんなエルの魅力を率先して引き出したソフィアについても、「彼女は非常にミニマルな人間で、決してやりすぎることがなく、詩人みたいだよ。何より、彼女の映画は5分見れば彼女のものだとわかる。それはすごいことだよね」と高く評価する。

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映画界に燦(さん)然たる作品群を残してきたコッポラ監督だが、約10年間もメガホンをとらなかった時期がある。実はその間、ニューヨークの真ん中にユートピアを想像するという壮大な意欲作「Megalopolis(メガロポリス)」の構想を温めていたが、世界中を震撼させた9.11の衝撃から方向性を見失い、製作を断念せざるを得なかったのだ。それをきっかけに、コッポラ監督はある“3つのルール”を自分に課すことに決めたという。

「私はもう結構な年だけどね、若い頃の気分に立ち返るように、学生映画を撮るような感覚でこの映画を作ったんだ。新しい発見をしたかったし、過去の栄光にすがることなく、新しい映画を作りたかった。最近は誰かの戯曲や本からストーリーを取ってきて、それを脚色するのが当たり前になっているだろう? だから自分で原案を作ること、パーソナルな要素を含むこと、自己資金によって製作すること、この3つのルールを自分に課している。私的なことは自分自身について学ぶことでもあるし、あとは自分のお金をリスクすればいい。それによってもちろん失うこともあるし、それはよくあることだよ(笑)。私くらいの年齢の仲間たちは、大きな予算を使って好きなものを好きなだけ注ぎ込める環境にあるのかもしれない。私は大きな予算は組めないけど、そのメリットとデメリットは双方にあって、こちらはプロデューサーの言いなりになる必要もないからとても自由だよ」

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