「本物のヒーロー(アンチヒーロー)とブッチギリに卑小な外道」ジャンゴ 繋がれざる者 平田 一さんの映画レビュー(感想・評価)
本物のヒーロー(アンチヒーロー)とブッチギリに卑小な外道
通常の娯楽映画に親しんでいる人間には(僕も含めて)この映画を初めて見たら戸惑うと思う。タイトルロールのジャンゴ役にはタフそうなジェイミー・フォックス。彼が奴隷商人に屈するようには見えないし、逆に反撃できるぐらいの力強さをスゴく感じる(弱そうな男の印象、今ならオタクと草食系だし)。ただ先に断言する。エピローグで見方は変わる。タランティーノ作品では『パルプ・フィクション』(1994)の次に好きです!
まずとにかく素晴らしいのは、シュルツを演じるクリフトフ・ヴァルツ!ランダ大佐が見事だった『イングロリアス・バスターズ』(2009)から、こんな素敵なオジサマをわずか3年でお見せするとは!いやもはや参りました!師としてもパーフェクトです(『スター・ウォーズ』のクワイ・ガン・ジン、ヨーダ級の存在ですよ)!
「賞金稼ぎ」というオフィシャルで悪を討てるこの仕事の利点難点それらすべてを丁寧に教えてくれて(現代人は参考必須!)、それでいて相棒としても頼もしい存在感。茶目っ気のあるところだったり、エレガントなビールの注ぎ。これらすべてが品格に直結していて見事でした!だからこそミスタープッチに撃ち殺されるあの最期は、哀しくって尚更「ジャンゴ頑張れ!」って応援しました!一時は「主演男優」になった逸話も納得です。まあその分ジャンゴが主役に昇格するのがかかりますが(これは後述)。
レオについては、いつになく楽しそうに演じてましたが、サミュエルさんの存在感に残念ながら霞んでましたね(笑)ただ良いバケーションにはなっていたと思いますよ(トラボルタは悪役芝居が楽しいって言ってましたし)wサミュエルさんは外道執事を実にイキイキ演じていて、負け犬の遠吠えや惨めな死に様サイコーでした!彼の爪の垢を煎じて、スパイク・リーに飲ましてやりたい!
少しここからフォックス版ジャンゴの良さで長くなります。彼の良さとは、“耐え忍ぶ”強さからの“爆発力”です(大高忍の漫画『マギ』のモルジアナを知ると良いかも)。序盤のジャンゴは心折れる一歩手前の状態ですが、根底には奥さんを見つけ出す闘志があって、それがシュルツの出会いを機にどんどん強くなっていきます。ただ先に述べたように彼の武器は射撃の腕より、“耐え忍ぶ”強さです(もちろん射撃も一級ですが)。
劇中レオが演じているカルビン・キャンディの所有奴隷が脱走するも、発見されて殺されそうになるんですが(脱走した黒人奴隷の名前はダルタニアン)、シュルツが耐え切れなくなって、助けるために挙手するのを、遠回しにジャンゴがそれを一蹴してしまいます。ただこの時ジャンゴの立場は『マンディンゴ』(1975)に匹敵する奴隷商人の芝居中で、ダルタニアンを助けた後のリスクを直視しているんです。結果的にダルタニアンは無残に犬に食い殺されて、ジャンゴとシュルツはピンチを回避し、キャンディランドに無事着きます。
ダルタニアンを見捨てたジャンゴに不満が出るかもしれませんけど、あくまでジャンゴは人間であり、スーパーマンではありません。ジャンゴの当初からの目的、それは奥さんを助けることで、その一心で男ジャンゴは頑張って生きてきたのです。なのに誰かを助けることで目的を諦めるのは、あくまで僕の意見ですが、究極の偽善者です。タランティーノはそんな行為をジャンゴにさせるわけがなく、ちゃんとここで“耐え忍んで“、最後に勝利を勝ち取ります(当然ですがダルタニアンの仇だって討ちますよ)!キャンディランドは木っ端みじん、ジャクソンさんも前述のように素晴らしい死に様です!
あそこでジャンゴが助けようとしてたらボクは白けてました。奥さんを取り戻すにはやれることをやるしかない。『オール・ユー・ニード・イズ・キル』(2014)だってそうでしたから(白ける展開が見たいんだったら、そういう映画を見ればいいし)。
ただ不満を述べるなら、当初ジャンゴ筆頭候補のウィル・スミスで見たかった。彼は『アイ、ロボット』(2004)や『アイ・アム・レジェンド』(2007)内で見せた、弱さに負けてしまいそうな芝居が非常に素晴らしいので、そしたらウィルの代表作になっていたのは確かでした(今ではジェイミー・フォックス以外のジャンゴはあり得ないですが)。『スーサイド・スクワッド』(2016)のレビューでも指摘しましたが、彼はまだ引きに回る術と勇気を持っていない(前半は引きに徹する必要性がありましたから)。出ずっぱりでいたいスターの鎖はそろそろ断ち切らないと、ここ数年の不評の呪縛を抜け出すことは叶わないかと……。
他にも脇や話の地味さ、ジャンゴが主役へステップアップしていくのが終盤で、キャンディランドの銃撃以降は、ある意味長いエピローグ(銃撃戦でジャンゴが降参する場面は、未見ですが『殺しが静かにやってくる』(1968)の影響になるんでしょうか?)。それこそが最初に伝えた戸惑いの要因で、未だにボクはそのあたりにとても不満を感じています。贅沢は承知ですが、シュルツが一見主役のようにダマしながら描いておいて、退場後に不動の主役はジャンゴだと宣言して、長いエピローグの活躍をワクワクさせてほしかった。例え傑作だとしても、人と意見が違っても、これだけはどうしたって譲れない本音ですから……。
ただ先に述べたように、本作は『パルプ・フィクション』の次に好きな作品です!最終的にフォックスジャンゴはとにかくカッコ良かったし、シュルツは実に魅力的なジェントルマンでマスターでした!サミュエルさんは外道をとにかく素晴らしく全うして、史上最高にファンキーすぎる漢っぷりを見せつけました!
ぬるい娯楽が蔓延る今じゃ、刺激的なエンタメってだいぶ減少傾向なので、今のうちにチェックしといて損は無いと思いますよ。もし不満が勝っていても、でもなんか嫌いになれない映画だって感じたのなら、是非何度も見てください。新発見に出会えることを、素人なりに保証します!