ペーパーボーイ 真夏の引力 : 映画評論・批評
2013年7月16日更新
2013年7月27日より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにてロードショー
ビッチのキッドマンに外れなし。腐った男女が肉の臭いにまみれて
現役最高のビッチ女優はニコール・キッドマンである。
え、リンジー・ローハンやブリトニー・スピアーズでは? といった異論も聞こえてきそうだが、あの娘たちは自意識と品行に問題があるだけで、女優の域には到達していない。
が、キッドマンは文句なしに女優である。頭と身体がよく動き、だらしない肉食獣を演じると最高に光る。「誘う女」や「イノセント・ガーデン」を見た方なら、きっとつぶやく。ビッチのキッドマンに外れなし、と。
そんな彼女のビッチ歴に強力な作品がもう1本加わった。「ペーパーボーイ 真夏の引力」。舞台は1969年のフロリダ州モート郡。沼地のもたらす高温多湿の空気に包まれ、ねっとりとした生臭い話が展開されていく。
キッドマンが演じるシャーロットは、話の糸口となる女だ。彼女は、保安官殺しの嫌疑をかけられた死刑囚の無実を、地元出身の新聞記者(マシュー・マコノヒー)に訴える。記者の弟は、無職で童貞のジャック(ザック・エフロン)だ。彼らは行動をともにして、事件の真相を探りにかかる。
しかし、謎解きは映画の前線にとどまりつづけない。監督のリー・ダニエルズは、むしろ、腐った男女の腐った言動が招く腐った話に眼を凝らす。これをつぶさに描き出すほうが、ずっと面白いではないか。
なかでも白眉は、シャーロットの腐り方だ。図太くて、柄が悪くて、さほど腹黒いわけではないのに、平然と男たちを振りまわすビッチ。その存在が原動力となって、映画は終始、血と肉の臭いにまみれつづける。自分の指で股間のパンティストッキングを裂く場面も、クラゲに刺されたジャックにまたがって放尿する場面も、キッドマンは余裕でこなしている。いや、あの無自覚やあのだらしなさを形にするには、相当の技が要るはずだ。彼女は、ずいぶん前からその技を身につけていた。
(芝山幹郎)