「父もダメなら母もダメ」そして父になる Chisaさんの映画レビュー(感想・評価)
父もダメなら母もダメ
原作小説を読んだときは「映画なら感動するのかも」と感想を残した記憶があるんだけど、映画でもあんまり、というか小説以上に心が動かず、違和感と野々宮夫婦の痛々しさばかりが印象に残った。
福山雅治扮する野々宮良多の自己中心なダメ夫ぶりがクローズアップされているけど、その夫の陰に隠れて見て見ぬ振りをし続ける(同情を込めて言えば、萎縮してしまっている)妻も、同じようにかそれ以上にダメ妻だと思った。
「そして『父』になる」じゃなくて「そして『親』になる」だよこれじゃあ。
「うちではなんでも一人でやる方針なんです」っていう良多の台詞を聞いて、この夫婦は大人と関わるのと同じようなやり方で子供と関わっているんだな、と感じたんだけど、でもそれって無理があるでしょ、子供は子供だもん。
でも子供って本当に意味不明で脈絡がなくてこの世のものとは思えないような行動を取るから、大人として暑かったほうが楽。
「我慢を覚えましょう」「自分一人でできるようになりましょう」とか。
結局二人とも楽をしてしまって、全力で慶多と向き合うことをせずになんとなくその場を取り繕って生活してきたから、琉晴に繰り返し「なんで?」「なんで?」と聞かれたときに言葉に詰まった。
日頃から大人として扱われていた慶多が相手なら、「なんでも、だ」という大人の都合で疑問を封じ込めることができたけど、琉晴はそんな都合なんか知ったこっちゃない子供だから、納得できなかった。
なんでもいいから適当に答えればよかったのにね。
野々宮夫婦は、「正論じゃないし筋も通らないけど、子供が納得できる理屈」を何一つ持っていなかったんだ思う。
なかなか残念な作品だったけど、たぶん原作小説の時点からあんまり私には合わなかったんだと思う。
是枝監督の映画は本当に綺麗。
普通の高速道路とか寂れた街並みとか、いつもは気にもとめず素通りしてしまうような風景がよく出てくるんだけど、不思議とそのひとつひとつがあたかも特別なもののように美しく見える。
この作品の方がずっと内容的にはリアルだけど、ところどころで「空気人形」に似たちょっと浮世離れした空想の世界みたいな雰囲気のシーンがあって、やっぱり是枝監督いいなぁ〜と思った。