劇場公開日 2013年9月28日

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「見る人の経験や感受性が大きく関わる作品」そして父になる conichanさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0見る人の経験や感受性が大きく関わる作品

2013年10月17日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

知的

幸せ

是枝監督がもうこんな福山雅治は見たくないというギリギリのラインを探ったイヤミな奴を主人公にしたとおっしゃられていたが見た感想は普通の人じゃん!!当たり前の言動じゃん!!ということ。仕事から帰ってきて息子のピアノを見てあげるなんてむしろ凄いよ。
物語的には主人公に据えるにはたしかにリスキーだしリリーさんがキャラ勝ちでむしろ立ってる!と思うかもしれない。
でもこれを現実世界に置き換えたらみんな仙人みたいにならなきゃいけない。
リリーさんご本人が言っていたがまさにこの雄大という父親はファンタジーだ。実際にあのご主人がいて内外装ぼろぼろの家に住まい、ろくな稼ぎのない夫に子供を任せて自分は安いパートで家計を支えていたら妻は出口のない迷路のような気分で毎日を過ごし、いつしかキレるし出て行くかもしれない。実際ならそんな人多いと思う。子供たちは親が思うより早く成長して行くので経済面が重くのしかかる心労の日々はどのようなものだろう。これ幸いと慰謝料の計算ばっかりしてるんじゃないよ!!・・・とは思いつつ物語としてのセオリーに操られてまんまとこのろくでなしの父になぜかやられてしまうのは痛い・・・。
それよりも、必死に働く人を駄目みたいに扱えるかな?できないでしょ?!て感じ。一緒に見に行った主人は冒頭で既に怒りが先にきてしまったみたいでまともにストーリーが頭に入らないくらい怒っているのが傍目に感じられて私ははらはらしながらの鑑賞となってしまった・・・。(うちの主人は猛烈な仕事人なのでね)
現実、共働きのご夫婦が多いご時勢でこれを見たら夫婦共に子供と接する時間は食事とお風呂などのお世話のみ。休日に全員が揃うのは土日祝日でも少し難しいという家庭ならもはや救いもない思い。保育園任せで人に育てて貰ってたらあかんやろ?自分にしかできへんことあるんちゃうか?と雄大に叱られそうだ。こんなこと上から言われたらまさにふざけんな!!て感じ。良多は言動はアレだが人の助言はすんなり受け入れる場面がそこかしこにあってなおさらそこが温度感のない父親に少し人間味をだしてくれててそこがいい。

でも、これはあくまでもドキュメンタリーでもなく普通の人が普通に悩み、苦しみ、答えが出ない煩悶を繰り返す序章にたった物語。本編は映画が終わった後に鑑賞した人々の心の中で続いて行く。

あまりにリアルで演技を超えた感情や動きが見られ、それが胸に迫り、痛いくらいひりひりする瞬間がちりばめられている。これは間違いなく出演者の誰もが世界で認知され後世に名作の一本として残っていく代表作となったことは必至だ。目線や子供に添える手、妻を支える手、子が親を求める気持ちなどの表現がリアルすぎる。この家族の傍らで静かに寄り添い、息を殺して見つめる感覚に陥る。こらえきれずに落涙してしまう。何日も心を支配された映画は久しぶりに見た。

福山雅治というエンタメの申し子のようなアイコンがいるだけにテレビドラマ版ガリレオのような刺激を求めていたり、是枝監督作品に初めてお目にかかる人はいささか戸惑い、多くを語らず詩的で色んなものを孕んだ行間の余白を読ませる・・・そんな大人の世界観にはもはや理解不能で問われているものに追いつけない。
今は向かなくても自分の人生経験が違うステイタスに変わった時点で何回と無く見返したらいい。ありきたりな表現をすると見るたびに心に響く部分が違うだろう。
つまり、作品が見る人を選んでいる。

conichan