「「家族になろうよ」」そして父になる 勝手な評論家さんの映画レビュー(感想・評価)
「家族になろうよ」
第66回カンヌ国際映画祭で審査員賞受賞。10分間にも渡るスタンディングオベーション。それは、是枝監督が退場しなかったらいつまでも鳴り止まなそうだったので退場したと言うくらい。また、審査員長のスティーブン・スピルバーグは初めて見た時から本作品が賞に値するという確信は揺るがなかったと語り、審査員のニコール・キッドマンは後半一時間は涙が止まらなかったと語っています。公開初日、スティーヴン・スピルバーグのドリームワークスによるハリウッドリメイク決定の報告も行われています。
「家族とは何か?」と言うテーマを描いています。子供の取り違えという悲劇的な出来事により、家族とは血縁なのか、あるいは、育った時間・環境なのか、それを問うた映画だと思います。しかしそう言う悲劇を描いた映画なのに、不思議と心が重くなったり、悲劇的な気持ちになるような気がしません。確かに悲しい話であり、実際にラストシーンには泣きそうになってしまいましたが、何もかも投げ出したくなるような悲しさではなかったんですよね。むしろ、思いっきり考えさせられました。この作品のタイトルにもなっている「父になる」と言う事も描かれています。それは取りも直さず、「家族とはなにか?」と言う事と不可避なのかもしれませんが。
福山雅治が演じる絵に描いたようなエリートの野々宮良多と、リリー・フランキーが演じる地方都市の自営業者の斎木雄大。対照的な二人ですが、幸せそうに見えるのが斎木なのは、気のせいではないのだと思います。物語の殆どを通じて野々宮良多は、全てに対して一枚ベールを被ったような感じで、妻とも子供とも真に心を通わせている雰囲気はありません。ラストでやっと、ベールを剥いで本当に心を通わせることが出来た時、「父になる」と言う野々宮良多の回答が出たのだと思います。
こう言うテーマの映画の場合、夫婦も崩壊してしまうと言う描き方も有るんだと思います。この作品中でも、子供の取り違えにみどりが不安定になったり、良多の態度・反応についてみどりが不満を漏らす場面は有るんですが、それ以上の事柄は敢えてなのか描かれていません。あんまりそれを描くと、ドロドロしすぎるからですかね。確かに、そんなシーンがあったら、こんな感動作品にはならなかったでしょうね。それにしても「何で判らなかったんだ。母親なのに。」と言う言葉は、残酷ですよね。判るわけが無いと思うんですが・・・。
福山雅治演じる野々宮良多の妻みどりは、尾野真千子が演じています。尾野真千子と言えば、明るく、チャキチャキな演技を見ることが多い気がするんですが、この作品では一転、貞淑なエリート妻を演じています。そこが印象的でした。
演技派真木よう子は、三人の兄弟を持ち、たくましく生きる母を上手く演じていますね。まだ若いですが、いいお母さんだと思います。
一番いい味出していると思ったのが、リリー・フランキー。彼の、少しいい加減には見えるが、きちんと子供の目線で子供と対応している姿は、一線引いた野々宮良多と好対照です。いいお父さんだと思います。
さて、発表されたハリウッドリメイク。どう言うキャストで描かれるのか、興味深いですねぇ。早く見てみたいです。
なんかしらんけど、頭のなかで『家族になろうよ』はヘビロテになりました。描いているテーマは違うと思うんですけどね。